「Volume Two」コロナの状況があったからこそ生まれた? 喜びに溢れたアーロンパークスの最新アルバム

aaron parks volume two

アーロン・パークス「Volume Two」

パーソネル

  • Aaron Parks(Piano)
  • Matt Brewer(Bass)
  • Eric Harland(Drums)

アルバムトラック

  1. See, See
  2. Lunar
  3. Cartoon Element
  4. Body And Soul
  5. Montara
  6. Transform

コンテンポラリージャズピアニストの先駆者であるアーロン・パークスのアルバムで、メンバーは同世代のマット・ブリューワーとエリック・ハーランドのピアノトリオです。

2022年6月にリリースされたアルバムですがこれより前のアーロンのアルバムはリトルビッグという大編成のバンドやレジェンドとのトリオの作品が多く、同年代のトリオのアルバムは初めて(?)ではないでしょうか。

パンデミックの間はずっと家での制作や配信を強いられてきてましたが去年からようやくニューヨークのミュージシャンも活動再開し出しました。

このアルバムもコロナ明けに制作に取り掛かったアルバムとなりますのでメンバーやエンジニア全員久々のリアルタイムでのレコーディングになります。

ほとんどリハーサルしないでレコーディングに臨んだアルバムですが、久々に会って音を出した喜びや溢れ出すイマジネーションがこのアルバムから伝わってきます。

Volume oneもあるのですが今回は個人的に好きなVolume Twoをピックアップしてみたいと思います。

抜群のハーモニーセンス

1曲目からアーロン・パークスの世界に持っていってくれるのが嬉しいですね。曲のハーモニーがオシャレなんですがプレイはあまり飾らずいい感じに力が抜けていてアーロンのキャラクターがよく出ています。

アーロンの弾くソロのセンスもいいですがコードセンスがとても個人的にツボでどの曲を聴いても美しくとことんオシャレです。

ソロでアウトフレーズを弾いたりしますが基本的にテーマ部分は常に美しいハーモニーで構築されていて聴いていてたまらないですね。

3曲目の”Cartoon Element”もアーロンの曲ですが少しオーネット・コールマンの要素を含んでいます。テーマ終わったらフリーっぽくやるのかなと想像していたら案の定ベースソロから自由に始まっていきます。

ベースソロがビルドアップしてきたらピアノソロに移り、キース・ジャレットやジェリア・レンのようなフリースタイルになっていきます。

他の作り込まれている曲とは対照的で想像力とお互いの感覚で曲が進んでいきます。

こういうクリエイティブに演奏するのは1人ではできないので久々に演奏するとなるとジャズマンとしてはかなり楽しいはずです。

今まで積み重ねてきたからできたアルバム

アーロン・パークス以外にもマット・ブリューワーの曲やエリック・ハーランドの曲もピックアップされています。それも過去にアーロンがプレイしたものから選曲されています。

2曲目の”Lunar”はマット・ブリューワーのオリジナル。2016年のマットのリーダーアルバムに収録されており、この時のアルバムでは5人編成のクインテットでレコーディングしていてアーロンも参加しています。

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クインテットという大きい編成なのに不思議でダークなサウンドなので全体的に静かめですしアルバムとしても暗めです。

しかし本アルバムではこの特徴的なベースラインはトリオではだいぶ薄められていたり、暗いコードより明るいコードの方を強調していたりするのでだいぶ聴きやすくなっています。

エリックのプレイも曲に合わせて控えめにはしていますが、ポジティブな明るい音色に弾けるような細かいリズムもプラスされてこっちのテイクの方が好みです。

アルバム最後の曲はエリック・ハーランドの”Transform”で締めくくっています。過去にこの曲はテレンス・ブランチャードのアルバム「Bounce」でレコーディングされていました。

この時はアーロンもエリックも若手として活躍してきた頃で2人とも同時期にテレンスのバンドに参加していました。ベテランのテレンスのバンドで2人が試行錯誤していた時代の曲を選曲しているのもアツいものがありますね。

この頃と今回のアルバムを聴き比べてみても面白いかもしれません。若手からベテランになってからも本質の部分は変わりませんが演奏スタイルが成熟してるところを感じられます。

若さの勢いでいってたプレイヤーが大人になって音色やスペースを上手く使って盛り上げていっているので、元から上手かったプレイヤーもこれだけ成長するんだなと感じられるくらい進化具合がすごいです。

このアルバムには他にも”Body And Soul”のようなスタンダードナンバーをアルバムのシーンを変えるという意味で上手く使っていたり、ボビー・ハッチャーソンの曲”Montara”もかなりオシャレにアレンジされています。

今回リハーサルをあまり行わなかったそうですが、それもこのプレイヤーたちの経験値と過去に共演して曲を共有していたからこそ成し遂げられたというのもあるでしょう。

このアルバムの推しポイント

このアルバムの推しポイントはライヴ感があるという点です。

スタジオで録ったものですが聴いている感じはライヴを聴いているかのようなリアル感があります。

きっとミキシングやマスタリングは最低限のもので直にサウンドを感じて欲しいんじゃないかなというコンセプトも含んでいる気がします。決して音が悪いという意味ではありません。

ミキシングとマスタリングとは例えるならお化粧のようなもので、録音できたものを映えて聴こえやすいように音を整えて綺麗にする作業のことです。

完璧に整えて提供するのもプロフェッショナルですが、ナチュラルメイクのようなできるだけ飾らず親近感を持たせる音作りになっている本作品も魅力的です。

音作りもそうですがプレイもいい意味で力が抜けています。普段のライヴの延長でやっているくらい力が抜けています。

それに加えて久しぶりに音を交わす楽しさや嬉しさもこのアルバムには詰まっているのでなんだか不思議な感覚です。

毎日ハイレベルな演奏をしてきたプレイヤー達が途端に演奏する機会をしばらく失うというのは相当喪失感があったと思いますが、その状況にも負けずようやく活動ができるようになった矢先のアルバムなので計り知れない音を出す喜びが詰まっています。

コロナがなければこういうアルバムはできなかったかもしれませんね。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。