今回はいくつか有名なビッグバンドをオススメしていきたいと思います。
ビッグバンドとは小人数編成のバンドである「コンボ」では出せない、大人数のバンド編成によるゴージャスなサウンドや圧倒されるようなホーンセクション、それをスイングさせるリズムセクションで、聴く人をハッピーにさせるジャズのスタイルです。
日本ではビッグバンドの間口は広く、すこし昔ではキャバレーで生のビッグバンドが多く活動していました。
近年では山野ビッグバンドジャズコンテストなどが有名で、大学生からビックバンドジャズを始める人も結構います。
今回ご紹介するのはビッグバンドの演奏をしている、もしくはこれからビッグバンドを始めてみたいという人は、必聴のバンドです。
ビッグバンドの形態
まずビッグバンドとは、そもそもどういうものなのか軽く触れておきましょう。
ビッグバンドでは基本的にピアノ、ベース、ドラムのリズムセクションと管楽器が手前からサックス5人、トロンボーン4人、トランペット4人の順番に並んでいます。
並び方にも意味があってメロディをよく担当するサックスが一番手前、サウンドをつなぐトロンボーンが真ん中、音がよく通る華やかなトランペットは後ろ、という構成だとバランスよくオーディエンスに伝わります。
また各楽器(セクション)にメロディをリードする人がいて、横に並んでる人たちはそのリードに寄り添ってハモったり、リズムを合わせり、フレーズのニュアンスを合わせたりしています。
あとは曲を演奏すると各楽器がパズルのようにはまり合うので、自分の担当している楽器と他のセクションを一緒に聴くことでアンサンブルしていきます。
クラシックと同じように指揮者がいるときもありますが、テンポは基本的にリズムセクションのドラムに合わせることが多くなっています。
同じジャズドラマーでもコンボとちがい、ビッグバンドではテンポキープに命をかけているドラマーは多いでしょう。
それだけではなくドラムは管楽器がスムーズに入れるようにコンピングしたり、バンドを鼓舞するフィルインを入れたりと大きな責任がつきまといますね。
しかも叩く内容が譜面に細かく書いていないため、ドラマーごとにフレーズを用意しておくかその場で作ったりするなど、センス次第でバンドのサウンドも変わっていくという特徴があります。
人数が多いとミスがバレないと思いがちですが、どの楽器も自分しかできない役割を与えられているので意外とミスできないのです。言い方を変えると無駄がないバンド形態ですね。
曲の中の仕掛け
コンボと同じようにイントロ、テーマをみんなで演奏した後にアドリブに流れますが、アドリブ演奏中やその後にビッグバンドならではの仕掛けがあるのでカウントベイシーのSatin Dollを題材に解説していきます。
・BG(バックグラウンド) – ソロをとる人を盛り上げるためにバックの管楽器がハーモニーをつけてあげるパートのことです。だいたいこのBGが入ってくるとソロが終わりになり次の曲のパートに移っていきます。(動画3分あたりから)
・シャウトコーラス – ソロ終わった後やラストテーマ入る前に曲を一番盛り上げるパートです。ビッグバンドの見せ場ですね。ドラムが全体をプッシュして管楽器が派手に曲を盛り上げます。(動画4:05あたりから)
なので曲の進行としては、
(イントロ)-(テーマ)-(ソロ)-(ソロ+ BG)-(シャウトコーラス)-(ラストテーマ)-(エンディング)
という流れで進行していきます。
現代的なビッグバンドではこのような構成ではないパターンも多いですが、昔の名曲はこの進行で演奏されることが多いです。
これでビッグバンドの仕組みが少しわかりましたね。
それではおさえておきたいビッグバンドを順番に見ていきましょう。
コンボが始まる前のビッグバンド
長い活動期間を誇るビックバンドも数多く残っていますが、最も歴史あるビックバンドといえばこちらでしょう。
グレン・ミラー・オーケストラ
“茶色の小瓶”や”インザムード”そして”ムーンライトセレナーデ”でおなじみの、世界で一番知られていると言われるビッグバンドです。
活動歴が長すぎて、オリジナル音源古くく、あまりいいクオリティで聴けないのが残念です。
しかし、どれも一度は耳にしたことがあるオリジナルのビッグバンドです。
ベニー・グッドマン・オーケストラ
クラリネット奏者のベニー・グッドマンはグレン・ミラーのバンドを経て自分のバンドを作りました。
このバンドで最も有名になった曲といえば”Sing Sing Sing”です。
ドラマーのジーン・クルーパーもスター性があり、当時は“一番ご機嫌なスイングをするバンド”として活動していました。
デューク・エリントン・オーケストラ
デューク・エリントンは、名ピアニストであり名作曲家として名をはせたプレイヤーです。
彼の書く曲のビッグバンドアレンジはメンバーそれぞれ、誰がなにを吹くのかをイメージしてアレンジするそうです。メンバーが変わればアレンジも変えていたのかもしれませんね。
日本でよく聴かれるアメリカのビッグバンド
日本の大学のビッグバンドサークルが参考としてよく取り上げるビッグバンドがいくつかあります。
こういったサークル内ではここで紹介するバンドは「神バンド」と呼ばれます。
カウント・ベイシー・オーケストラ
私もジャズの演奏を始めたのはカウント・ベイシーのコピーからでした。
ビッグバンドをやるなら必ず通る、といっても過言ではないバンドです。
カウント・ベイシーはピアニストですが、彼は自分がソロを弾くときはあえてバンドの音量を最大限に下げ、紳士的にピアノソロを弾きます。
そうすることによって派手な管楽器とのギャップで、ピアノがより目立つ、という仕組みになっています。これもビッグバンドならではですね。
普通のリーダーであればバックをガンガン盛り上げて、自分も激しい演奏をすることで目立ちたいという考えに至るのですが、カウント・ベイシーはある意味大人です。
また、イントロでソロを演奏してバンドをあたためるということも行います。
こちらも、普通のリーダーならば美味しいところだけ持っていきたいと思ってしまいがちですが、リーダー自ら曲の下地を作っていくということもいといません。
それから、このバンドにはギターがいます。
このギターが要となり、ドラマーはギターが聴こえる音量で演奏しないといけない、というルールがあると聞いたことがあります。
オリジナルのバンドサウンドを作るためにいろいろ工夫されているバンドです。
オススメアルバム
「Straight Ahead」
「On the Road」
どれも名盤ですがこの中に収録されている
- Basie Straight Ahead
- Magic Flea
- The Queen Bee
- Wind Machine
- In A Mellow Tone
以上の曲はよくビッグバンドサークルで演奏される曲です。
バディ・リッチ・ビッグバンド
泣く子も黙るドラマー、バディ・リッチのバンドです。
これほどのドラムテクがある人は、後にも先にもこの人だけのような気がします。
ビッグバンドとしてのエンターテイメント性を追求しながらも、バンドサウンドにはとても厳しく、クビにされたメンバーは数しれず。。
なんと、本人は譜面が読めないらしいですがとても耳がよくて、誰かが間違えたら一発でわかるそうです。
それだけこだわりを持ってエンターテイメントとしてのジャズをお客さんに届けたいという思いがあったのでしょう。
彼のバンドで演奏されている曲は、現在でも名曲として演奏され続けています。
オススメアルバム
「The Road Of ’74」
「Big Band Machine」
サド・ジョーンズ・メル・ルイス・オーケストラ
トランペッターのサド・ジョーンズとドラマーのメル・ルイスがリーダーのビッグバンドです。
サド・ジョーンズはもともとカウント・ベーシー・オーケストラで作曲やアレンジを担当していて、メル・ルイスは若い頃からビッグバンドでの活動が多く、ベニー・グッドマンのバンドにも所属するほどでした。
2人ともビッグバンドに深く精通していたことが分かりますね。
ビッグバンドに精通しているからトラディショナルなものを! というわけではなく、もっとビッグバンドのサウンドが進化するよう、ハーモニーなどのアレンジがとても凝っています。
2人とも、もう今はこの世にいませんがバンドはニューヨークの老舗ビレッジバンガードでビレッジバンガード・ジャズ・オーケストラと名前を変えて続いています。
オススメアルバム
「Monday Night」
「Live At the Village Vanguad」
コンテンポラリーなビッグバンド
マリア・シュナイダー・オーケストラ
作曲家のマリア・シュナイダーのビッグバンドです。
彼女のバンドサウンドは透き通っていて、清々しく、浄化されるようなサウンドが特徴的です。
そして曲にストーリー性があってまるで映画を観ているかのようなスケールの大きさがあります。
ソロに入るところの雰囲気作りまでアレンジが細かいですよね。
そしてソロが盛り上がって終わるところで、バンドがクライマックスに向けて曲を作り上げていきます。
凄腕プレイヤーたちばかりですが売れっ子ミュージシャンは入れないらしく、昔、有名サックスプレイヤーが自らこのバンドに入りたいと志願したところ「あなたは忙しいからバンドに入れられない」と言われた、という話を聞いたことがあります。
このバンドにじっくり向き合ってくれるメンバーを選んで音楽にこだわり続けるプロフェッショナルなところが、リスナーにとってとても魅力的ですね。
オススメアルバム
「Sky Blue」
「The Thompson Fields」
狭間美帆ビッグバンド
マリア・シュナイダーに感化されているだろうビッグバンド作曲家の狭間美帆さんです。
ビッグバンド中心に活動されていますが、彼女のやりたいプロジェクトはビッグバンドにとどまらず、さまざまな形態のバンドを作って作曲を手がけています。
マリア・シュナイダー的なサウンドも継承しつつ、もっと現代寄りなアプローチをするのも特徴的です。
オススメアルバム
「Journey to Journey」
「Time River」
日本で観たいビッグバンド
小曽根真 NO NAME HORSES
ピアニストの小曽根真さんのビッグバンドです。私もすごく好きでよく聴いています。
とにかく気持ちいいサウンドでどの曲もとてもいい印象です。
現代的なサウンドをしてますが、マリア・シュナイダーのようなコンテンポラリーなアプローチというよりは、トラディショナルなものをルーツにしている感じです。
曲の中にいろいろ仕掛けを作っているのですが、それがラグタイムだったりセロニアス・モンクのオマージュであったり、著名な作曲家のガーシュインのものだったり、どこをとってもジャズのルーツを感じます。
オススメアルバム
「No Name Horses II」
「ROAD」
山下洋輔ビッグバンド
小曽根さんのビッグバンドと半分くらいメンバーが被っていますが、全然違うサウンドを作り上げているのが特徴です。
山下さんといえばフリージャズで有名ですが、ここでも自由に弾くスタイルを大事にしていますが、曲を作り上げていくことも同じくらい大切にしています。
アレンジはトロンボーンの松本治さんがよく担当していますが、ボレロだったりラプソディインブルーだったりなどの大曲をアレンジして演奏しているのが有名ですね。
オススメアルバム
「ボレロ|展覧会の絵」
「新世界より」
廣瀬真理子とパープルヘイズ
ビッグバンドの曲を作って活動している廣瀬さんのバンドですが、他のビッグバンドとはかなり毛色が違います。
ジャズスタンダードのモーニンをアレンジして、かなりロックに仕上げていたり、変拍子を盛り込んで一曲にいろんなリズムが混ざるようにしたり斬新な試みをやっています。
今までにないアイデアを使ってビッグバンドの概念を変えているバンドです。
オススメアルバム
「Differentiation」
「Dorian Fellows」
今はコロナの影響で、こういういったビッグバンドを生で見る機会はほとんどありません。
ですが、活動が再開すればぜひ、どれも観ていただきたビッグバンドです。
コンボでの演奏が始まってからビッグバンドの数は減りましたが、今でもすばらしい演奏は続いています。
ビッグバンドの世界観は小編成のときとはスケール感がまったく異なるので、聴いたことがなければぜひチェックしてみてくださいね。