どうも! モジカル編集部のマイク松田です。
さて、今回から新しい連載を。
それが「ジャズの裏街道」!
僕は、毎週ジャズ専門のラジオ番組にてパーソナリティーを務めています(FMおだわらというところで)。
そんなお仕事の影響で、年間約300枚ほどのジャズの音源を聞いていますが…
ジャズほど珍盤、つまり通常ならありえないような音源のある音楽はない! と思っています。
なぜこんな場所で演奏を…、どうしてこんな環境で…、うしろでしゃべっている人だれ? めちゃくちゃ食事している音聞こえるんだけれど…、など、不思議なものがたくさんあります。
ライブを醍醐味とするジャズでは、ライブ盤での録音が多い。そのため、こういったハプニングや変わった環境が多いのだと思うのですが…
これが非常におもしろい。
そんな珍盤をどしどしご紹介していきます。
Mark Whitfield 【Raw】
初回にご紹介する珍盤は、ギタリスト、マーク・ホイットフィールドのRawというアルバム。
マーク・ホイットフィールドは、USA出身のギタリスト。
若手のときから期待大のミュージシャンで、ジャンルを問わず多くの有名ミュージシャンと共演しています。
ハンマリングやプリングオフを使わず、ほとんどの演奏をピッキングのみでおこなうスタイルは、実はわりと評価の分かれるところ。
ツイッターのアカウント名がクイックピックだったりと、速弾きに相当力を入れている人です。
僕は独特の音色が好きでよく聴きます。最近はあまり来日しないので、ライブはずいぶんご無沙汰ですね。
彼のシグネイチャーモデルの赤いギターはとてもかっこよくて、欲しいなーと思っているんですが、結構高いんです。
マーク・ホイットフィールドのリーダーアルバムは、知っているかぎり10枚ほど。
いずれも、初期と近年のプレイにちがいがあり、そこがおもしろいところだったりもするんですが、
1点、これは…というアルバムがあります。
それが【Raw】。
2000年に発表されたアルバム。
ギターカルテットのよくある編成での演奏ですが、ピアニストにロバート・グラスパーが参加していたり、ジャケットがかっこよかったり。
一見したところ、特段不思議なことはなく、むしろギターカルテットへの参加が少ないグラスパーの演奏を聴きたくて、ちょっと楽しみなアルバムに見えます。
ええ、僕もそのうちの1人でした。
しかし、驚くのは実際の音源を聴いてみたとき。
こちらです。聴いてみてください。
さて、お聴きいただいた方。
「なんだよ−、データアップしたときに音質めっちゃわるくなってんじゃ〜ん」と、思われた方もいるでしょう。
いえ、これ、この音質が製品版です。
そう! とてつもなく録音環境・機材が悪いんです。
正直、熱心なジャズプレーヤーの学生が、スマホ(iPhone初期型くらい古いやつ)で隠し撮りした(そんなことしちゃ、ダメぜったい)音質なみに悪い。
初めて聴いたときは、当時使用していたイヤフォンがぶっ壊れたのではないかと思い買い換えを検討したほどでした。
これ、もしや正式にリリースされたものではなく、ファンメイドのブートレッグではないかとも疑いましたがなんと本人名義のリリース版です。
いやー、すごい。
これだけ音質悪いのは初めて。ジャズ、というか、全正式リリース音源の中でも屈指ではないでしょうか。
ただ、演奏内容はどうか、という部分で聴いてみると…、たしかに、この音質でも出したくなる気持ちは分かるかも…。
おそらく、これ、リリースする予定のなかったものではないかと思うんです。たぶん、メンバーの誰かが録音していたやつ。
ジャズのライブに行ったことのある人は、演者が録音機をセットしてから演奏する姿を見たことがあると思います。
アドリブ演奏の多いジャズでは、演奏の様子を演者本人が後で確認するために、自分自身で録音機をセットして聞き返すということがあるんですね。
そして今回の音源、ピアニストであるグラスパーの音は遠く、マーク・ホイットフィールドとベーシストのブランドン・オーウェンズの音だけでかい。
置き場所は客席ではないよう。まして、ミキサーのラインから録音したことでないことは明白。
たぶん、マーク・ホイットフィールドか、ブランドン・オーウェンズあたりが後で聞き返そうと録音したか、スタッフがステージ端でボイスレコーダーで録音したものではないかと。
いろいろ調べても、この音質のせいなのか微妙に知名度がなく、情報が出てきません。
とにもかくにも、非常に珍しい珍盤です。
これまで多くの音源を聴いてきましたが、ちゃんとしたリリースを経たものでこれだけの音質は初めて。
これだけでも一聴の価値ありですが、ロバート・グラスパーの参加した曲は、ほかのマーク・ホイットフィールドのリーダーアルバム全部を含めても一番盛り上がっており、
最近のグラスパーとちがう情熱的なプレイを楽しめます。
興味のある人は是非。
次回は観客がステーキに夢中になっちゃっている、アレ。