フリューゲルホルンがジャズトランぺッターの持ち替え楽器に選ばれる理由

フリューゲルホルン 持ち替え

フリューゲルホルン。

一般の人が見たらトランペットが太くなったやつと思われそうな楽器ですが、多くのジャズトランぺッターが持ち替え楽器として使用することの多い楽器です。

今回はトランペットと似ていてしかし全く異なるルーツを持つこの楽器にフォーカスしてみたいと思います。

フリューゲルホルンとは

「トランペットと似ていてしかし全く異なるルーツを持つ」と書きましたが、フリューゲルホルンとはサックスの発明者として有名なアドルフ・サックスによって考案された、サクソルンと呼ばれる管楽器群のうちのソプラノと呼ばれるものに該当するという考え方が主流のようです。

一方トランペットは新石器時代の遺跡よりその原型となる遺物が発見されているそうで、歴史としてはフリューゲルホルンとは比べのものにならないほど古いものです。

とはいえアドルフ・サックスがサクソルンと呼ばれる管楽器群を発表した当時(19世紀中ごろ)、すでに3本ピストンのトランペットは発明されていたようです。

ですから彼がフリューゲルホルンを考案するにあたってトランペットを参考にしたであろうということは容易に推測することができます。

フリューゲルホルンの特徴

直線的で、時としてエッジの利いた音色が特徴であるトランペットに対し、フリューゲルホルンは太く柔らかくて甘い音色が特徴で、とても暖かな印象です。

例えば以下のような音源は参考になるのではないでしょうか。

こちらはロイ・ハーグローブがトランペットを演奏している音源です。

一方こちらは同じくロイ・ハーグローブがフリューゲルホルンを演奏しているものです。

 

いかがでしょうか? 同じプレイヤーの演奏でも、トランペットかフリューゲルホルンかでかなり違った印象かと思います。

ついでに言えば、初心者にとってはトランペットに比べて手っ取り早くいい音色を出すことが可能です。

だからといって決して初心者向けとまでは言いませんが、下手くそだと誰が聴いてもモロバレなトランペットに対し、フリューゲルホルンはその音色の良さで少しだけごまかす余地があるように思います(笑)。

なぜ音色が異なるのか

この音色の違いは管の形状によるもので、管の円錐部分がどれだけ多いか、そしてその円錐の度合い(開き具合)によります。

トランペットは管が円筒形をしているエリアが多く、直線的な音が出やすくなっています。

一方フリューゲルホルンは円錐形のエリアが多く、またその開き具合もトランペットに比べると急です。

ちなみに両者の中間のような音色が特徴であるコルネットはその管の形状も中間的なものとなっています。

持ち替え楽器としてのフリューゲルホルン

ジャズの世界でフリューゲルホルンだけを専門としているプレイヤーは非常に稀で、ほとんどの場合フリューゲルホルンはトランペットの持ち替え楽器として演奏されることが多い傾向にあります。

その理由はトランペットとほとんど同じ奏法でフリューゲルホルンも演奏することが可能だからです。

一般的なトランペットのキーはB♭ですが、フリューゲルホルンの場合もB♭のものがほとんどですから同じ指使いが可能ですし、音域もほとんど同じです。

どんな曲で持ち替えるのか

多くの場合はバラード曲でトランペットから持ち替えます。

しかし必ず持ち替えなくてはいけないということではありませんし、トランペットで演奏するバラードも心に迫るものがあって良いものです。

例えばこの動画なんかはいかがでしょうか?

 

ロイ・ハーグローブがフリューゲルホルンで演奏していた曲を、こちらはリー・モーガンがトランペットで演奏しています。

バラードの名盤として知られるクリフォード・ブラウンのウィズストリングスもフリューゲルホルンではなくトランペットでの演奏ですし、決してバラードでのフリューゲルホルンへの持ち替えが必須というわけではありません。

上にも少し書いたことと関連しますが、バラードでバレやすくなる演奏のアラがフリューゲルホルンだと誤魔化しやすくなるというメリットも……。

決してこんな理由でトランペットからフリューゲルホルンへ持ち替えてはいけません(笑)。

 

ここまでやたらとバラードだけ強調してしまいましたが、クラーク・テリーのように普通のアップテンポの曲で用いてもいいですし、ゆったりとしたボサノバなんかでもいいでしょう。

いずれにせよフリューゲルホルンの持ち味である太くやわらかな音色を活かせる局面で用いるのがベストです。

ややこしいフリューゲルホルンのシャンクについての話

フリューゲルホルンのマウスピースを選ぶときに注意しなければならないのがシャンクについてです。

シャンクというのはマウスピースと楽器本体を接続する部分のことで、トランペットであればほぼ全てのトランペットが統一されたシャンクなのでマウスピース選びの際にそこを気にする必要はありません。

しかしフリューゲルホルンでは主に3つのシャンクが存在し、それを間違えて買ってしまうと最悪マウスピースが入らなかったり、入ったとしてもその楽器にとってベストな状態で演奏することができなくなってしまう原因となります。

ややこしいことに3つのシャンクの呼び方はそれぞれ複数存在するため、なるべく分かりやすく解説してみたいと思います。

1.ラージシャンク

トランペットのようにシャンクにテーパーのついたもののうち、径が太いものがこれに当たります。

ヤマハシャンク(Yシャンク)とも呼ばれ、ヤマハやXO、コーンなどに使うことのできるシャンクです。

2.スモールシャンク

バックシャンク(Bシャンク)とも呼ばれ、ラージシャンクに比べて小さい径のものがこれに当たります。

その名の通りバックのフリューゲルホルンに使えるだけでなく、カンスタルやベッソン、クルトワなどに用いることができるようです。

※「アメリカンシャンク」に関する注釈

フリューゲルホルンのシャンクの呼び方でアメリカンシャンクというものが存在します。

アメリカンシャンクのフリューゲルホルンを使用したことがないため、今回記事を書くにあたって少し調べてみたのですが、アメリカンシャンクという呼び方でラージシャンクを指したり、その逆のことを書いているものもありました。

またラージとスモール、これらテーパーのついているシャンクをまとめてアメリカンシャンクと呼ぶ向きもあり、正直なところよく分かりません(そもそも僕自身使ってないので)。

そもそもぶっちゃけた話、テーパーのついているシャンク同士であれば多少無理はあってもマウスピースが入ってしまうこともあるそうです。

しかしシャンクというものはフリューゲルホルンの音程や音色に大きな影響を与える要素ですから、必ず正しく選択するべきです。

ですのでアメリカンシャンクという記述がされている場合はラージかスモールか少し注意してみましょう。

3.ストレートシャンク

別名フレンチシャンク、ケノンシャンクとも呼ばれます。

フリューゲルホルンと言えばケノンと言われることがありますが、ケノンがフランスの管楽器メーカーであること、そしてシャンクにテーパーがついておらずほぼまっすぐなシャンクであることがこれらの名前の由来でしょう。

現在このシャンクのマウスピースを販売しているメーカーは限られますし、そもそもフリューゲルホルン本体もこのストレートシャンクを採用しているものは珍しい方です。

しかし3つのシャンクの中で最もフリューゲルホルンらしい音色が出るシャンクであり、ほとんど生産されていないにもかかわらず、これにこだわるプレイヤーは少なくありません。

僕自身もケノンのフリューゲルホルンを使用していて(借りものですが)わざわざそのためにモネットにストレートシャンクのマウスピースを発注したくらいです。

 

というわけで最後は少しマニアックな話になってしまいました。

フリューゲルホルン、ちょっとマイナーですが、トランペットを吹くことのできる人であれば容易にその恩恵を感じ取ることができる楽器です。

興味のある方は一度楽器店で手に取ってみてはいかがでしょうか?



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。