Tree Falls | テイラー・アイグスティ10年ぶりの渾身作

Tree Falls

今回も前回に引き続き去年一番興奮したアルバムをご紹介します。

これは本当に激推しの1枚なのでスルーせずに聴いてほしいアルバムです!

テイラー・アイグスティ「Tree Falls」

パーソネル

  • Taylor Eigsiti(Piano)
  • Charles Altura(Guitar)
  • David Ginyard(Bass)
  • Eric Harland(Drums)
  • Ben Wendel(T.sax)
  • Gretchen Parlato(Vocal)
  • Becca Stevens(Vocal)
  • Casey Abrams(Vocal)
  • Sam Sadigursky(Flute)
  • Emilie-Ann Gendron(Violin)
  • Nathan Scrham(Viola)
  • Hamilton Berry(Cello)

アルバムトラック

  1. Sparky
  2. Skylark
  3. Hutcheonite
  4. Play With Me
  5. Tree Falls
  6. Rainbows
  7. Listen In
  8. Accidentally
  9. Bandwiches
  10. Plane Over Kansas
  11. Tree Fell
  12. The DJ Situation

大編成にアルバムトラックも12曲というボリュームですがアルバム1枚聴くのに1時間にも満たないので美味しいところを凝縮したアルバムです。

最近は曲の長さが平均5分くらいで、沢山の曲を聴けるアルバムが多いですね。昔みたいに4曲で1時間のアルバムは時代の変化と共に無くなってきています。

テイラーがリーダー作で新譜を出すのは2010年以来ということでファンとしては待望のアルバム。

聴いた感じはプレイや曲の作り込み方が昔から進化してますが、やっぱりテイラーの音楽には統一性があるな、という印象です。

今回は過去のテイラーの音楽と合わせながら今回のアルバムに触れていこうと思います。

攻めてくる音楽

テイラーの曲は音数の多いリフやメロディーラインが特徴的でどのアルバムにもそういった曲が盛り込まれています。

彼の音楽性としてリズムに正確で音の跳躍が多いのが特徴です。

音に適度な重みがあって全体のサウンドのバランスがいいので、聴いていて急かされる感じもないですし個人的には「アレンジがしすぎ」みたいな感覚もありません。

今回のアルバムは特に1曲目から攻めていて、数秒でテイラーの音楽に引き込まれるような印象です。

攻めていると言っても安易にパワーでガンガン推していくわけではありません。

ピアノとギターのリズムが分かりにくい不思議なリフから始まり、ベースとコードがふわっと乗っかってきて雰囲気が変わっていきます。

さらにドラムが入ってからはエリックが4分音符を刻み出して、ようやくリズムがわかりやすくなりリズムにのれてきたところでホーンが増えて曲が広がっていきます。

一瞬またピアノとギターだけに戻ったかと思えばすぐにドラムが8ビートを刻んで全然違った展開をみせていくのですが、この流れがあまりにもハッとするような展開、そして新しい展開になったときのベースラインがカッコ良すぎて興奮します。

そこからはストリングスがさらに曲を盛り上げてからテイラーのピアノソロに繋がっていくので最高の展開でピアノソロが聴けます。

そこから先の展開もよくできていて後半にとっておいてあるベン・ウェンデルのソロの入りがファンとしては最も感極まるポイントでした。

1曲目から飛ばしてきてこの先どうなるのという感じですが2曲目からもいろいろ工夫があります。

力強くも聴きやすいアレンジ

過去アルバムでテイラーはスタンダードを自身でアレンジして収録しています。

例えば、

created by Rinker
Concord Jazz

挑戦的なアレンジをしていますが曲のメロディを崩さないようにしているのでアレンジを知らずに聴いても楽しめます。

ソロになればテーマの雰囲気を引継ぎつつコード進行は私たちが使ってるスタンダードブックの内容とほぼ一緒なので音楽に入り込みやすいです。

今回のアルバムでは”Skylark”をアレンジしています。

この曲は普段バラードで演奏されることが多く、すごくオープンな響きを持った曲だというイメージがあります。下の動画がよく演奏されるイメージと近いです。

ですがテイラーは大胆なアレンジを施していて落ち着きながらもちょっとイケてるアレンジに仕上げています。

コード進行やドラムのビートがチャラいとえばチャラいですが、アレンジとして弦楽器を加えているので上品な仕上がりに聴こえるのがニクイですね。

1曲目も相当すごいですがこの2曲目からカラーを変えてきているのがアルバム全体を通して聴きやすさを演出しています。

テイラーの持ち味を引き出すボーカリストたち

1作前のアルバムからテイラー節がだいぶ見えてきています。

最初のアルバムはスタンダードのカバーが多く、2作目もスタンダードに加えメセニーやコルトレーンの曲などのアレンジ半分と自身のオリジナル半分という感じでしたので前作は大胆に音楽性が変わっているのがわかります。

その前作ではほぼ自身のオリジナル曲でこれにボーカルを加えたものが多くありました。

これを聴いた感じジャズというよりは最近のアメリカンミュージック、カントリーミュージックに近い感じです。

このベッカ・スティーブンスが前回のアルバムのカラーを色付けていますし、このテイラーのアルバム後にベッカは活躍し出すのですが彼女の音楽にも影響していると思います。

少し話はそれましたがお互い影響されてきた中で今回のアルバムでまた共演となるのはいいですよね。

今作に参加しているグレッチェン・パーラートとも関係が深いです。

今までは彼女のバンドでテイラーがレギュラーピアニストとして参加していました。

その彼女がアルバムに参加してくれるのもアツいポイントです。

テイラーはこの2人から影響されて今のテイラーサウンドがあると思うので今回のアルバムはボーカル曲も聴きどころですね。

動画はCasey Abramsという男性ボーカリストをフィーチャーしたものです。

これも聴いたらジャズというよりはアメリカンポップミュージックに近いですね。

ですがこの感じがテイラーのカラーだと思うので今回のアルバムはかなりサウンドやアレンジ、編成に凝っていて完成度が高いと思います。

更に進化したコンテンポラリージャズの完成形の1つ

いい意味で今のアメリカ人らしい個性を持つテイラー・アイグスティ。ワイルドで攻める部分もありながらジェントルに周りとのバランスを保つ能力は一級品です。

さらにアメリカ人が好きそうなポップな部分を持ちつつコンテンポラリージャズのサウンドも精通しているというおいしい部分を持ったピアニストのアルバムなので、コンテンポラリーファンからもライトなファンからも幅広く楽しめるアルバムだと思います。

2021年に出た新譜の中では一番刺さったアルバムなのでぜひ聴いてみてください。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。