柴漬けは本当は茄子の漬け物らしい

茄子 柴葉漬け

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過日、漬け物の話になりました。

というのも、僕はぬか漬けの愛好家。日に2回はぬか床をかきまわしています。

「今日は大変だったよ。こんなことがあってね」「いやー、うまくいかないこともあるもんだ。これこれこういうことになったんだ」

など、愚痴や悩みをこぼしながら手入れをしているのでもはやウチのぬか床は親友を超えて愛妻です。

他方、知り合いは塩漬け派。キャベツや白菜などの葉物野菜を塩のみで乳酸発酵させて漬け物にしていて、2人で塩の加減や発酵の失敗談などを持ち寄ってなかなかに盛り上がりました。

その際に話題にあがったのが“柴漬け”。

呼び方の変遷には諸説あるようですが、もともと赤紫蘇が名産であった京都の地域で茄子を用いて作られており紫蘇の葉を使用して漬けられることから紫葉漬け(むらさきはづけ)と呼ばれていたものが、時代の変遷にて柴漬け(シバヅケ)と読まれるようになったとのこと。

気になって物の本にて一読したところなんと元来茄子で漬けるのが一般的らしい。

いや、考えてみればキュウリの柴漬けしか食べたことがない。

しかも柴漬け風調味液というものに漬けられたものがほとんどで、旧来の作り方とは一線を画す、まがいものとも言えるものだとか(区別のため、ここから茄子の柴漬けは柴葉漬けと表記します)。

本来はどのような味なんだろう、食べてみたい。

こうなるともう止まらない。地元の小売店や漬け物屋を回ったものの、なんと茄子の柴葉漬けがどこにもない。

こういう漬け物はやはり関西文化。西に住む友人に聞いたらやはり京都では茄子の柴葉漬けが普通に売っているらしい。

では、行こう。いざ京都!

と、思ったのですが、仕事が忙しく行けない。ちょうど京都に出張に行く人がいたので買ってきてもらえるようにお願いしました。

はあ〜。京都、行きたかった。

茄子 柴葉漬け

こちらが購入してきてもらった茄子の柴葉漬け。

いくつかお店を回ってもらったようで手間をかけさせてしまいました。感謝。

購入時にお店の方に、茄子を大きな樽などで塩にして重しをのせ、長期間乳酸発酵させて紫蘇を加えるというのが柴葉漬けの作り方、と教えていただけたそうです。

では、さっそくいただいてみます。

茄子 柴葉漬け

茄子は塩と重しで十分に水分が抜け、随分と薄くなっていますが1本茄子の長さくらいはあるので食べやすい大きさに切り分けました。

茄子 柴葉漬け

あのね、まずキュウリの柴漬けと香りがまったくちがう。

乳酸発酵した独特の香りで、なんというかさわやか。深呼吸できるタイプの鼻抜けのよさ。

ちょっと切れてない部分あった…。ご容赦。

しかし向こうが透けるくらいになっている。相当の期間塩にしないとこうはならないでしょう。

では。いただきます。

うん!? これは! うまい! キュウリの柴漬けと全然ちがうじゃん!

なにあれ! キュウリはニセモノだ!

茄子は皮の部分が十分に締まってコリコリとした食感で、塩味は強くなく、ちょっとなんと表現したらいいのか。いい塩梅という言葉以外に見つからない独特の塩加減。

それからなんといってもこの香り。まるでシャンパンのようなかぐわしい発酵臭。

これは驚きだ。まったくの別物じゃないか。

ご飯が合うタイプじゃない。お酒、それも重めの日本酒のアテなんかにちょうどよさそう。

別日にほかの茄子の柴葉漬けもいただいてみたのですがやはり同じ感想。

もちろん微妙な差異はあるものの基本線は同じ。

こちらは紫蘇が大きめに残っているので食感がおもしろいですね。

香りは抜群によく、独特の味わい。こちらはシャンパン、か、どちらかといえばプロセッコのような香り。

あー、これは逸品です。

そしてやはりご飯が合わない。個人的な感想ですが。

しかし、昔の漬け物といえば白米ではなかったにしろご飯を食べるお供だったはず。

なにせ漬け物と椀物で米1合は食べていたというのだから、当時の雑穀米なら相性がいいのかしら。

という話を友人にしたところ、答えが分かりました。

茄子 柴葉漬け

お茶漬けだったわ! そうかー、そういやそうだな。関西在住歴が皆無なもので、あまりお茶漬けを口にする機会がないんですよね。

冒頭にも出てきた関西在住の知り合いに聞いたら「お茶漬けやろ」って言われました。

昔から、家庭では竈の多用はそうそうできなかったために、朝飯以外では湯漬け(お茶でなくお湯をかけたご飯)やお茶漬けは一般的な食事だった。

茄子 柴葉漬け

柴葉漬けはお茶漬け用に細かく刻んで。

お茶漬けに…。

茄子 柴葉漬け

ちょいとのせて。いただきます!

うまい。これでご飯にぴったりの相棒になりました。

なにしろキュウリの柴漬けとのちがいに驚きます。後日店頭で見たところキュウリのものは柴漬け風調味液で作っているものばかりなのですね。

ここまでちがうと柴漬け風と名付けていいのだろうかという疑問さえ感じます。

これ、もしも偶然話に聞かなかったら本物の柴葉漬けに巡り会う機会があっただろうか。

日本人なのに、あの柴漬け風を外国に柴葉漬けとして紹介することになっていたかもしれない。

ちょっと、考えさせられました。

ちゃんとした日本の食事って、いつから手軽に手に入らなくなってしまったんでしょう。



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大学卒業後に新聞社に入社、その後ビジネス書の制作を得意とする編集プロダクションに転職。フリーでWEBや紙媒体での企画、編集、執筆、撮影などを担当し、現在はモジカル編集長。趣味の料理が高じてレシピ記事なども制作。