温泉民宿のお風呂のこと

箱根の早雲山で大涌谷の掛け流し温泉の温泉民宿を営んでおります、箱根金時荘でございます。

少しずつあたたかくなってきて観光業もにわかに活気づいてきました。

私が運営いたします温泉民宿のお仕事とは、簡単に言えばお客様を迎え入れて、夕飯と朝食を提供して、滞在中は温泉のお風呂に入って体を休めていただいて、気持ちよく次の目的地へとお客様を送り出すということです。

お客様を迎えて送り出すまで、たくさんの項目にわたるお仕事があるのですが、その中でも一番重要だと感じるお仕事が、お風呂のお掃除についてです。

箱根金時荘の温泉は大涌谷の掛け流しの白い濁り湯温泉です。 温泉のお掃除は、この浴槽に溢れる温泉をまず栓を抜いて抜くところから始まります。

お湯を抜くと、浴槽の底には白い湯の花がたまっています。

お風呂の温泉をコップに取ってみると、小さな白い粉末が混ざっているのが見えます。

これが湯の花です。湯の花は温泉成分の結晶です。これが天然温泉の白いにごりをつくり、また、温泉の効能が詰まった証拠とも言えるかも知れません。

この日は、浴槽の底にこんなに湯の花が溜まってしまいました。

温泉供給会社の毎日の見回りの人が、温泉を計量しながら送管についた余分な湯の花を流したので、いつもよりこんなに溜まってしまったのかもしれませんね。

湯の花はいい温泉であることを表すものでもありますが、そのまま放置すると固まったり、浴槽の底にぬめりのようなものを発生させすべりやすくなったり、不快な触覚を生んでしまいます。

そのため、毎日温泉の入れ替えのときにお掃除しなければいけません。

ホースで水を流しながら、デッキブラシで湯の花を洗い流していきます。

きれいになりました。

ここまでするのにおおむね1時間ほど。金時荘には2つ浴槽があるので、この作業をもう一度行います。

これを営業日は毎日、年300回近く行います。 お客様からもお掃除が大変ですね、とお声がけいただくこともありますが、この作業をしないと気持ちよく温泉を楽しんでいただけないため温泉民宿にはかかせない仕事です。

こんなに綺麗に流しても、温泉を貯めれば、湯の花が沈殿してくるのですが、湯の花こそ温泉の成分なので、白い湯の花がなければ、濁り湯温泉とはならないのです。

浴槽の栓は、エンビのパイプにしています。

以前紐に結んだ円形の厚みが3センチほどの栓にしていましたが、満々の温泉をはかす時に紐を握って全力で引っ張っても、水圧で紐がキレてしまうほどで、なかなか抜けませんでした。

結果、このエンビパイプの栓に替えました。

とても良いアイデアで、栓を抜く力がいらないのです。 他の温泉旅館などでもあまり見かけない形だと思います。

温泉を浴槽に溜めている間に、洗い場のタイル掃除と蛇口の錆磨きへと移ります。

温泉泉質が酸性-カルシウム-硫酸塩:塩化物泉ですから、金具がすぐに錆びてしまいます。

銀製品のアクセサリーなども錆びてしまうので、私は昔から銀製品は持っていません。金やプラチナなどは錆びないので、つけて入浴しても大丈夫です。

さてこのさびた蛇口を磨くのには、カネヨンを使用します。

カネヨンと3Mのスポンジタワシを4当分したもののサイズが磨きに最適なのです。

スポンジたわしの両端を両手で持ってゴシゴシ磨くと、金色に輝きます。

普通のお湯であればここまでする必要はありませんが、この作業も温泉地ならではです。

かけ流しのような強い温泉成分のお風呂の場合、新品に近い状態を保ち続けることはほぼ不可能と言えるかもしれません。

どうしてもくすんだり、温泉成分が固まったりしてしまいます。

それでも、金時荘ではこの作業を続けています。

私自身も各所のさまざまな温泉に入ってきましたが、どんなにいい温泉でも洗い場の管理が不十分だと、やはりわびしい気持ちになります。

完璧にはできなくても努力だけは続けていきたいのです。

この作業はとにかく時間がかかるため、以前ほかの磨き剤に変更したこともありますが、やっぱりカネヨンで時間をかけて作業するのが一番キレイになるのです。

こんなに輝きます。しかし、翌日にはもう、うっすら錆びてしまいます。

金時荘では、2日に1度磨くことにしています。

蛇口の磨き過ぎは、メッキをはがして削り取ることですから、程々も大切かと思います。 次に、鏡の曇りや水垢などは、バスマジックリンを使って擦ります。

鏡は、今風の曇り止めなど表面加工のないタイプなので、洗剤でスポンジを使ってゴシゴシ擦っても差し支えないのですが、最近の鏡などは、表面塗装が特殊なタイプが主流のため、同じ方法はご家庭では使用されないほうがいいと思います。

風呂桶と椅子をバスマジックリンで洗い流します。

設置している、シャンプー、コンディショナー、ボディソープをそれぞれ満タンに補充します。

ここまでしてようやくキレイな浴室になりました。 画像にはありませんが、壁や天井の磨きも行います。

一般家庭のお風呂とちがって長い時間お湯を張っているのでなにもしなければ天井や壁にカビなどが発生してしまいます。

天井掃除などを含めると2つの浴室でおおむね4時間ほどの作業時間です。

こういった細かなお掃除を経て、みなさまに気持ちよく利用していただける温泉がご用意できます。

そして、お客様のチェックイン前に浴槽に温泉を満タンにします。 ご家庭のお風呂と違い湯量が多いので、溜めるのに4時間30分はかかります。

すべての作業をチェックイン時に間に合わせるため、逆算して作業を行う必要があるのです。 新しいお風呂に入って仰向けになって、思いきり手足を伸ばしてあーいい気持ちです。

この気持ちを、そっくりお客様に味わって頂きたい一心から、お風呂掃除が一番重要だと感じる所以です。

お客様の「とてもいいお風呂だった」「気持ちよかった」の感想のお言葉がお風呂掃除を楽しい気持ちにさせる魔法の呪文のようです。

最近のニュースで、大きな旅館で温泉施設の浴槽を年に2回しか完全掃除をしていなかったために、レジオネラ菌が通常の基準の2000倍の検出をしたと聞きました。

レジオネラ症発生防止対策の検査は、強羅の温泉組合では年に2回の検査が必須です。

金時荘では検査でも一度も基準にひっかかったことがありません。

毎日お掃除するのは当たり前としてきましたのでニュースを見たときは大変驚きました。

当館の浴室更衣室には、ちょうど3月に検査を終えて、レジオネラ菌の不検出の証明書を掲示しておりますので、ご来館の際はお確かめください。

お客様の笑顔を楽しみに、せっせとお風呂の掃除をしております。

ぜひ、大涌谷の掛け流しの白い濁り湯温泉に入りにきてください。