ジャズミュージシャンに聞く、トランペットから音が出る仕組み

トランペットという楽器

トランペットとは唇で振動を作り、それを楽器と口腔で増幅させて演奏する楽器というところまでは一般的によく知られていることかと思います。

それではなぜトランペットは音を変えることができるのでしょうか、というところが今回の記事のスタートです。

世界中で演奏されているトランペット、一見しただけでは分かりにくいですが、突き詰めて考えると、実は非常にややこしいことをしながらさまざまな音をコントロールしているのです。

ピストン(バルブ)の役割

トランペットについているピストンは空気が通る管の長さを変えるという役目を持っています。
※ちなみにロータリーは管の長さを切り替える機構が少し異なるだけで、空気の通り道の長さを変えるという原理は同じです。

手前から1、2、3と番号がついていますが、それぞれのピストンを押すと対応する管の中を空気が通るという仕組みになっています。

 1番ピストンを押すと1番管の中を空気が通り、2番ピストンを押すと2番管の中を空気が通るようになるといった具合です。

何も押さない状態を0と呼んだりしますが、この状態は空気が通る必要のある管の長さが最も短く、逆に123全て押している状態は最も長い状態です。

それぞれの管の長さをご覧いただければお分かりかと思いますが、2番管が最も短く、その次に1番管、そして3番管が最も長くなっています。

実際の機能としても2を押すと半音下がり、1で1音、3を押せば1音半下がるという決まりがあり、このピストンのポジションの組み合わせは全部で7通りです。  

短 0→2→1→1,2(3とほぼ同じ)→2,3→1,3→1,2,3 長

平たく言えばピストンのついているトランペットは管の長さを7通りにコントロールしているということになります。
※正確には8通りですが、1,2と3を押した状態はほぼ同じ音程が出ることになっているので7通りとしています。

しかし平均律を用いる西洋音楽では基本的に音の種類は12種類です。

7通りの管の長さでは明らかに足りないような気がします。

ちょっと寄り道・・・

余談ですが4本のピストンを持つトランペットも存在します。

ピッコロトランペットや一部のフリューゲルホルンのように低音域も演奏するために2音下がる管に繋がるピストンを備えているものや、クォータートーントランペットのように4番ピストンによって1/4音(半音のさらに半音)を演奏しようというものがそうです。

なんだかややこしい話になりそうなのでここから先は一般的な3本ピストンのトランペットのみを見ていきましょう。

倍音列

ピストンがついていないトランペットをご覧になったことはあるでしょうか?

信号ラッパなどと呼ばれるものなのですが、これらの楽器はピストンがないため一般的なトランペットのように「ドレミファソラシド」という音階を演奏することができません。

それでもこの動画のように限られた音を演奏することは可能です。

 ここから話がややこしくなってきます。 音には倍音というものが存在します。

1つの音の波の中にそれよりも高い別の音にもなり得る波が混じっているという感じです。

僕自身も詳しいわけではないので難しい説明は置いておきますが、ピストンのついていないトランペットは1つの音に含まれる倍音に沿って音を出すことができるのです。

その倍音の並びを倍音列と呼び、倍音の並び方は管の長さが変わらない限り一定です。

例えば一般的なBbトランペットで何もピストンを押さずに演奏できる倍音列はこのような感じです。
※一般的に演奏に用いられることが多い範囲のみの抜粋。楽譜はBb表記。

倍音

  さて、先にピストンが3つある一般的なトランペットでは管の長さを7通りに変えることができると書きました。

1通りの管の長さだけで上に挙げた倍音列に沿った音が出せるのです。 これが7通りとなると…

倍音

これだけの音を出すことができます。

ようはこの中の音を組み合わせてドレミファソラシドなどさまざまな音階を演奏するわけです。

実際にドレミファソラシドを演奏しようとすると図中の1~8のようになるのですが、これでは目線が上や下へ行ってしまい大変読みづらくなってしまいます。 ですのでこれを平たく書いたものが運指表です。

「代え指」という概念

倍音列の表をご覧になった方の中には、同じ音なのに別の指使いで出る音もあるということに気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。

トランペットには代え指といって、同じ音を異なる指使いで演奏することが可能です。

状況によっては代え指を使って演奏した方が演奏しやすいことがあります。

その楽器の個体としてのクセ

現代のトランペットではあまりありませんが、ビンテージトランペットではよく音程の悪いものも存在します。

例えば1,2で出す低いミの音程が上ずりやすい場合は1,2ではなく3の指を用いたりします。

上で1,2は3とほぼ同じと書きましたが、実は3の方が若干音程が低いのです。

この特性を利用して丁度良い音程を吹くために代え指を利用します。

こういった特性を頭に入れておくと、音程の悪いトランペットでもある程度のフォローは可能です。

高音域での代え指

高音域でどうしても音程が下がってしまったり、代え指の方が音の抜けが良いという場合はそちらを用いることがあります。

倍音列の表を見ていただければ分かるとおり、特に高音域では一つの指使いで多くの音を吹くことが可能になりますからその分代え指も多く存在することになります。

僕は代え指を使うと頭が混乱してしまうのであまり使いませんが、知り合いのプレイヤーには積極的に用いる人もいます。

基本的に頭が良くないと使えません(笑)。

トレモロとして

この動画でのリーモーガンの演奏(3分39秒~)のようにトレモロとして代え指を用いることもあります。

この場合はミの音を0(本来の運指)と3(代え指)を高速で繰り返しています。

シチューエーションによっては非常に盛り上がりますのでぜひ試してみましょう。

乱用するとピロピロとうるさい奴だなと思われますが、そこらへんは用法・用量を守ってお使いください(笑)。



ABOUTこの記事をかいた人

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1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。