神奈川県の西の方にある、温泉の湧く地として有名な箱根町。そんな箱根の中でも標高700メートルほどの高い山の中。
箱根ロープウェイの早雲山駅の程近くにて、温泉民宿を70年営んでおります「箱根金時荘」の女将です。
箱根に生まれ住んでうん十年、生湯が温泉と言ってもいいくらい長く温泉に入り続けていますので、最近になって、私が知っていることや近くにありすぎて疑問にも思わなかったことをおもしろがっていただけることが増えてきました。
今回から不定期ではありますが、そんな温泉の話を連載していこうと思います。
今の世の中では、少し遠出して温泉を楽しむということも難しくなりましたよね。
もうすこし、世間の状況がよくなったときに私の話でも思い出して「今度の休みは、温泉に入りに行くか」とでも思って頂ければ幸いです。
金時荘の白い濁り湯です
箱根金時荘(以下、金時荘)では、白い濁り湯をご提供しています。
そのため子供の頃はお風呂と言えば白い濁り湯の温泉ばかりだと思っていました。
あ、今思い出しましたが、昭和40年頃は温泉専用の1回分づつに包装された粉末のシャンプーがありました。
それまでは固形石鹸などで泡立てても、キシキシとちっとも滑らかな仕上がりにならないものだったのに、その温泉専用粉末シャンプーはとても泡立ちがよく、素晴らしいシャンプーだったと覚えています。
とてもなつかしてくて、余談を挟みました。
毎日、温泉に入っているといえば「いいわね。羨ましいわ」と言われることが多くても、思春期の頃の私は「ちっともよくない」と思ったものです。
現在の金時荘では男性用と女性用の2つのお風呂がありますが、私が子供の頃は温泉の浴槽が1つしありません。
お客様も家族毎に使っていたのか、時間で男性女性と分けていたのか、とにかく、体を洗う上がり湯のシステムのシャワーもなかったので、湯上がり後が温泉臭くて、肌着までゆで卵臭が抜けません。
学校に行っても、温泉の家の子ってすぐにわかるので嫌だった思い出があります。
それが不思議と、年を重ねていくにしたがって、温泉がいかにいいものか、身にしみて感じるようになります。
箱根金時荘の温泉は大涌谷からの掛け流しの白い濁り湯温泉です。
箱根温泉供給株式会社が大涌谷で、吹き出す蒸気と地下水と湯の花によって作り出して仙石原や強羅方面にパイプで送り出しているのでしょう。
源泉名「蒸気造成混合泉」から容易に想像できます。
供給会社の仕事は、大涌谷の湯煙や蒸気が噴出している地帯での作業もあるのだろうから、平成27年の箱根山噴火の際には、立ち入り禁止地帯となったため作業に入れずに温泉が送られてこなくて、ちょろちょろ流れ出る源泉に給湯器のお湯を混ぜて自家製温泉を作ってお客様に提供したものです。
源泉と水道水が化学反応して浴槽のタイルが茶色くサビのように変色してしまったのですが、どんなに磨いてもちっとも落とせませんでした。
長年温泉が流れ出る口は、白い湯の花がかたくこびりついて石のように付着したのは、これも温泉の恵み、趣と捉えてそのままにし、水道の蛇口類は磨きを怠ると真っ黒に錆び付いてしまいます。
まだ記憶に新しい台風19号の被害により3週間ほど温泉が停止したこともありましたが、既に噴火の際の経験があるので工夫をこらしながら耐えることができました。
宿泊業を70年続けていますが、先代の話からも、温泉が長い期間出なくなることは数えるほどしか無くて、供給会社の温泉を各旅館に輸送する苦労の程がわかるというものです。
最近では、温泉女子だけでなく温泉男子がグループで温泉巡りを楽しむ光景が見られます。
温泉好きは年配者だけのものではなくなってきたのは、温泉を生業にしているものとしては、大変嬉しい事です。
今回は初回ですから、ここまで。
また次回にでも。