クリフォード・ブラウンやリー・モーガンなど、若くして亡くなるトランペッターは少なくありませんが、ブッカー・リトルもその1人として数えられるトランペッターです。
よくクリフォード・ブラウンと比較されることの多いトランペッターですが、それもそのはず。
若くして亡くなったという共通点だけではなく1956年のブラウンの死後、彼と入れ替わるようにシーンに登場しそのプレイスタイルも(当初は)どことなく似ているものだったからであると思います。
実際のところその知名度はクリフォード・ブラウンやリー・モーガンらに比べると少し見劣りしてしまう気もしますが…。
えてして高く評価されることの多いトランペッターなのにも関わらず、本当に好んでよく聴く人は(少なくとも僕の周囲では)あまり多くないという印象。
その理由としてはそもそも23歳とクリフォード・ブラウンよりさらに若くして亡くなってしまったために、あまり多くの作品を遺すことができなかったせいや、ちょうどハードバップというジャンル自体がリスナーからするととっつきづらい形態に変化していった時期に、まさにとっつきづらい方向へ進化していったからというのもあるのかもしれません。
リー・モーガンやフレディ・ハバードなど、他の多くのトランペッターがファンキー路線へ傾倒していったのとは対照的です。
ブッカー・リトルのプレイスタイル
クリフォード・ブラウンによる影響
ブッカー・リトルのデビュー作はクリフォード・ブラウン亡き後、1958年。
ブラウニーの後釜として(途中でケニー・ドーハムを挟みますが)マックス・ローチクインテット(Max Roach+4)でのデビューですから、確かに彼と比較対象にされても仕方ありません。
その上当時の彼の演奏を聴くと、タンギングの仕方や装飾音の処理に強くブラウニーに影響を受けています。
ちなみに単純にテクニックだけを見ても、ハイノートを楽に、伸びやかに演奏しつつも複雑なメロディに対応しており、ブラウニーと比べても遜色のないレベルであったと思います。
ブッカー・リトルの活躍は23歳で亡くなる1961年までのことですが、デビュー作以降、彼のプレイスタイルは徐々に変貌を遂げていきます。
例えば冒頭で張り付けた曲はブッカー・リトル自身の名前の冠した作品で、1960年のものです。
この作品ではそれ以前よりもタンギングは軽やかになり、音色もややシンフォニック寄りで柔らかなものになっただけでなく、アドリブソロのフレージングもブラウニーの影響をうまく発展させ、より個性を強めているのがお分かりいただけるかと思います。
エリック・ドルフィーによる影響
その後の彼に大きな影響を与えたのは紛れもなくエリック・ドルフィーでしょう。
ハードバップがより発展していくとともに、それまで比較的聴きやすいハーモニーを多用することの多かった曲のアレンジが、より複雑なハーモニーを用いたものになってきます。
そのムーブメントを推し進めたミュージシャンの1人は間違いなくエリック・ドルフィーです。
彼はブッカー・リトルだけではなく、当時の多くのミュージシャンに影響を与えていたようで、ブッカー・リトルの作品にもその影響は色濃く表れています。
正直、ジャズ初心者の方に向けては少しとっつきづらい作品にはなっていますが、まあこの時代の作品にはこんな感じのものは少なくありません。
トランペッター目線からのオススメ作品
オススメ作品というと、個人的にはやはりブッカー・リトルらしさということでマックス・ローチクインテット以降の作品を推したいところです。
1つの作品中でスタンダード曲を演奏している割合が他のトランペッターに比べて少なく、また演奏していたとしても大胆なアレンジが加わっていることが多いため、アドリブソロを耳コピして研究するトランスクリプションの題材としては少し手こずる方かもしれません。
Booker Little
ブッカー・リトルの作品で最も有名なものの1つです。
彼の作品ではホーンプレイヤーが複数存在することが多いのですが、この作品はワンホーンカルテットとなっています。
リズムセクションはウィントン・ケリー(p)、スコット・ラファロ(b)、ロイ・ヘインズ(ds)と超豪華。
オリジナル曲が凝っているのはこの時代としては当然のことですが、ハイノートをらくらくコントロールするテクニックの高さもうかがい知ることができます。
Out Front
こちらは3管編成であるだけでなく、ドラムのマックス・ローチが曲によってはティンパニやヴィブラフォンを演奏したりとやや変則的です。
エリック・ドルフィーを含めたホーンセクションが複雑なハーモニーを奏で、またリズムも複雑に切り替わったりで目まぐるしい作品です。
この時代のブッカー・リトルを知るためには良い作品なのではないでしょうか。
At the Five Spot (vol.1,2)
こちらはエリック・ドルフィーがリーダーです。
ライブ盤であるせいか、”Out Front”と比べるとよりアグレッシブな演奏を繰り広げているのですが、当然リーダーであるドルフィーもアグレッシブ…。
彼の演奏を苦手に感じる人にとってはかなり聴きにくく感じられるかもしれません。
その辺は時間をかけてじっくりと聴いてみてください(笑)。
この作品ではvol.1の”Fire Waltz”が名演奏として取り上げられることが多いのですが、個人的にはvol.2の”Booker’s Waltz”が、可愛らしさと何か黒々したものが混ざっているような感じがして好きです。
よく練られた重厚なアンサンブル重視なら”OutFront”や”Booker Little and Friend”を、熱い演奏ならこちらをという感じでしょうか。