どうもどうも、編集長のじさとしです。
そうめん、素に麺と書いて素麺(そうめん)と呼ぶ日本の麺料理を代表する食材の1つ。
夏をいろどる食事の風景を思い起こさせるからか、近代の詩では冷素麺(ひやそうめん)は季語としてもあつかわれますよね。
ちなみにそもそも調理後のお料理の名称としては「そうめん」とは水にさらして冷やしたものを指し、あたたかいものは「にゅうめん」と呼びます。
ひやそうめんはダブルミーニングのような気もしますが、もしかしたら氷水にうかべたものこそがひやそうめんであり、そうめんとはまた別のものを指すのかもしれません。
とにもかくにもひやそうめんは語感がよく、とくに末尾の「ん」で締まるところなんて風情があり、「めん」は一息に発声すれば1文字のように読めるので美しい。
五七五の五の部分に6文字なのにすんなりとおさまる様も、まるでのどごしのいいそうめんのようにすとんと落ちます。
歴史をひもとけば唐から渡来したお菓子がそうめんの始まりであり、渡来したばかりは索餅(さくべい)というひねり上げの大きいもののような揚げ菓子であったと雑誌で読んだときには「なんでこれが今のそうめんに・・・」と大層頭をひねったものです(いつものことながらこういうのは諸説あるうちの1つ。あしからず)。
で、池波正太郎だったか司馬遼太郎だったか(話は覚えているものの誰の著作だったかうろ覚え。藤沢周平だったかも、ちがったらすんません!)によれば江戸時代(おそらく後期)にはそうめんは広く普及し、油の流通がよくなって人々が1日3食を食べるようになったときには庶民のごはんとしての地位を獲得していたらしい。
そう考えるとなるほどと思うところもあり、そもそも、そうめんは乾麺として流通していたものの、この乾麺にする過程で油を使用して麺同士がくっつかないようにコーティングするそうです。
これには相当量を使用するはずなので、油が貴重な間は一部の商人や武家の食べ物で庶民の食卓に上がることはすくなかったはず。
菜種油が大量生産されるようになって、室内を照らす灯りの燃料として利用され、夜遅くまで人が起きるようになり、食事の回数が従来の日に2回から3回になったというお話は有名ですが、さらにこういった食材の普及にまで影響を与えたとなると、やはり人間の農業、工業などにかかわる技術的発展には目を丸くするばかりです。
なんてことを考えていたら思い出したのですが、そういえばジョージ秋山先生の浮浪雲(はぐれぐも:江戸時代が舞台のマンガ)では酒乱の夫に、女房がにゅうめんを出して一悶着ある様子が描かれたりしていたな。
お米のご飯ではなくそうめんを出して夫が米を食いたいと暴れるのですが、よく考えてみたらおかしな話で。
江戸時代ではお米はなにせ石高ですから、それは貴重なもので日本文化の芯と言っていいでしょうが、そうめんだってうまいだろう。
時代背景はちがうし価値観もちがうけれども、そうめんをなめるなよ!
米よりもうまい、そうめんを見せてやる!!
と、山岡さんばりに勢い込んでおいしいそうめんを作ることにしました。
そうめんを取り寄せる
前置きが長くなりましたが、夏を前においしいそうめんを用意したくなっただけです(照)。
以前は親戚筋から10Kg近いそうめんがりんご箱のような立派な木材の大きな箱で送られてきたりしましたが、さすがにこの人口減の時代。
親類縁者に遠縁の親戚の飼っているペットまで次々と鬼籍に入り、年老いた両親に朱槍をかかえさせ初老にむかって騎乗突撃を行うような身としては、あのおおきな木箱はもはや畏怖の対象であり、1日3食をそうめんに変えてもなくなることのない、文字通り夢見の悪くなる思いをいくどしたことか。
もはやあの箱の中身は連邦の白い悪魔ではないかと思ったこともあります。
すこしでいいんです。もうそんなに食べられないから。なんなら三把とかでいい・・・。
ということで、少なめのそうめんを頼むならば、先述の酒乱の夫がたまげてアルコールがぽんっと酒蒸しよろしく頭から抜けるくらいうまいそうめんを頼みたい。
であれば黒帯だろう、ということでネット通販を見て回ります。
というのも、そうめんにはいわゆるランクがあり、そうめんを一把にまとめる帯の色や帯上の表記で、この階級が分かるようになっています。
上等な級のものは黒帯で、2種類あります。
一番上が「三神(さんしん)」その下が「特級」で、一度三神をとあるお金持ちからいただき「はー、お金ある人はこんなに高いそうめんくうんだっぺか、ではいただきます」と、緊張の面持ちで思い切りすすり込んで勢い余り気管にはいり、目の前の家族分のそうめんの入った鉢に盛大にかましたのは今となってはいい思い出です。
さて、やはりうまいのは三神だろうと検索し、梱包されるそうめんの把数は半分近いのに下の級と変わらない金額を目にし、揺れの収まらないマウスカーソルを眺めながらページをスクロールしていくと目に入ったものが。
そう、金帯です。
金は古来から商取引において高価な担保として扱われ、現在では価格高騰からより高級な品となった金属。
15年ほど前、当サイトの所属ライターなかもらくんが突然「これからは金の時代ですからねえ、金は株などの投資とちがって現物なので価値がさがりにくいですしねえ、不動産よりも管理コストも少ないのに現金とちがい価値も変わりますからねぇ、これからは金の時代ですからねえ、私は買うならなににつけても金にしますからねぇ」なんてうさんくさいことを言い出して大層驚いたのですが、本当に言ったとおり2024年現在では金の価格は高騰し、先日「なかもらくん、あれだけ言っていた金がとてつもない価格上昇をしてよかったね、いまどのくらい持っているの」と聞いたら、「1gも持っていません」とあっけらかんと話してこれまた大層驚いたものです。
余談を挟みましたが、以上のことからも分かるとおり、黒よりも金のほうが高級感ある! こっちのほうがいいじゃない!
というアホ丸出しな考えで、買い物カゴに入れ、料金と送料の総額を6回も確認してえいやっとポチりました。
揖保乃糸 金帯到着
ということで到着したのがこちらです。
揖保乃糸、金帯。
こ、こんな桐の箱になんかど、どどどど動揺しないんだからね!
で、金帯とはなんぞやと言うと、熟成麺のことです。
通常の揖保乃糸よりも1~2年熟成させてから出荷されるものです。
これ、熟成が難しいのよく分かります。というのも先述の大量に大箱で送られてくるそうめん、時間が経つと途端に風味が悪くなるんですよね。
乾麺だから湿気を吸いやすくてそのへんに置いとくとカビっぽい香りがするようになったり。
それをしっかりと熟成させるには、保管環境だけではなく、最初から低加水にしたりしてるんじゃないかしら。
こういう熟成ものは「ひね」と呼ぶそうです。
たまねぎなどの野菜と呼び方は同じだね。
ちなみに金帯とはそもそも国家資格である製麺技能士の発足を記念して作られるようになったそうです。
そのため製造もこの有資格者のみだとか。
いやー、国家資格って大変なんですよ。組合・協会公認の資格なんかより厳格で。
やはり歴史の深い食材はひと味違いますね。
開封!
右端は1把既に取り出しました。
おお、見た目変わらん。ただ見たことのない金帯に若干気圧される。
あと、分かっていたことだけれど1段だ・・・。つまり目に見える分を食べればなくなるということ・・・。
IQが極端に下がるな・・・。
とりあえずめんつゆを用意しておきました。
にきったみりん、酒少々、三温糖少々、水、のベースにカツオの厚けずりと羅臼コンブを入れてしばらく煮て、薄口醤油と濃口醤油で整えたものをしばらく冷蔵庫で寝かせたもの。
醤油に削り節をいれて煮ためんつゆよりもすっきりしているので、これでそうめんの味をより楽しめるはずだぜ!
揖保乃糸 金帯を調理
とりあえず5把煮ます。
手触りはどうだろう。そんないにちがいを感じないかな。
強いて言えば黒帯よりもしっかりしているかな。
折れにくそうな感じはある。
茹でて1分半ほど。
流水でよく洗います。
というのも既に書いたとおり乾麺の表面は油が使用されているのでよく洗い流したほうが風味がよくなります。
今回はひねなのでとくによくざぶざぶ洗う。
完成。
洗っているときも大きなちがいは感じられなかったかな。
こちらもまた強いて言えば黒帯よりも香りが薄めかな。
とくに最初にざるにあげたとき、黒帯はもっとそうめん独特の香りがむせかえるくらいかおったような気がするけれど、こちらは淡い感じだったような。
うーん、でもあえて言うほどの違いはない気がする。
とりあえずウチの定番薬味オールスターズも用意。
氷水にうかべて冷素麺(ひやそうめん)の完成〜。
気の利いた一句でもと思ったけれど思い浮かばない。
冷素麺 ひねりはなくとも 金帯だ
ひねた一句ができました。では、いただきましょう。
金帯を試食
ひとすくい。
ん!? 朱塗りの箸を使用しているからということもあるけれど、麺にうっすらと透ける。
こんなに透けたっけ? どことなくはかなげだ。
それではずずり。
お、舌触りが違う! そうめんの角を感じる!
黒帯はもっと丸みを帯びた感じでぷつぷつ切れるような食感のところ、金帯は角が立ってプツップツッと歯切れがよい。
1本1本が口中でどういう状態なのか分かるな。
こりゃおもしろい。
お次はミョウガで。
うん! これはいける! 黒帯よりもより淡泊ながら鼻にぬける風味はしっかりとそうめん。
そしてのどごしも決して固くはないのに角のたった麺がするりと抜けていく。
特に薬味との相性がいいというのか邪魔しないというのか。味わいはしっかりとしているのにどことなく淡い。熟成が効いているからか歯触りも弾力があり、噛む度にそうめん、薬味、めんつゆと味わいが変わる感じ。
ちなみに薬味は数有れど好きなのはこの組み合わせなんだよね。
梅干しと葉ネギ。
梅干しは自家製で塩のみで仕込んだものなのですっぱくてしょっぱくて固いんですが、こうやって少し加えてあげるといいアクセントになるんです。
ただしなにぶん昔ながらの作り方なので風味が強く、食材によってはすべてが梅干しに支配されてしまう。
こちらはどうかな。
うん! いける! 負けてない! こりゃ逸品だ。
これまた梅干し、そうめん、葉ネギと噛むたびに味わいの彩りが変わる。
ショウガもおいしいですが、個人的にはミョウガと梅干し・葉ネギがパンチ力が強かったですね。
あっという間に第一弾を食べきってしまいました。
これはおいしいなあ。
パーティーはまだ続くぜ!
ということで揖保乃糸 金帯。堪能させていただきました。
歴史の深い食べ物と食べ方については、どうも最近は目立つために派手に、奇をてらったものになりがちですが、時代の付いたレシピにはそれだけの理由があることを理解させられました。
本来の日本食はどれだけ人の手を入れず、また自然のおいしさを最低限の手法で人に伝えるか、その「最低限」の部分をどこで止めるのか、どのように加え、引くのか、そして引かないことで最低限とするのか、実に奥深いです。
ひねたそうめんとはその最低限のもう一歩先をいく、職人の技術をおいしく感じさせてくれるものでした。
いやー、これは贈答品でも一風変わって喜ばれますよ。
それにしてもうまい。まだ口にしたことのないうまいものは星の数のようにあるな。
さあ、次はどんなものをたべようか。
ご期待ください。