コードを耳コピするときの実践編

先週の記事ではコードチェンジのトランスクリプションについて書きましたが、今回は実際に曲を使って解説してみたいと思います。



ここでは1コーラスが32小節のとあるジャズスタンダード曲の前半(16小節)を実例として取り上げることにします。

前回記事のとおり、テーマとアドリブソロの1コーラス目のベースラインをそれぞれ16小節ずつ書いてあります。

ト音記号が読みやすい方は上段を、ヘ音記号が読みやすい方は下段を読んでください。
※僕がヘ音記号に慣れていないため、表記が変になっている箇所があるかもしれません。ご容赦下さい。

まずはルートから探す

前回記事では

「必ずではありませんが多くの場合、そのコードの1拍目にはルートが演奏されます。」

と書きました。

とりあえずそう思ってテーマのベースラインを眺めてみましょう。

そうすると少なくとも各コードのルートだけはこんな感じになると予想できます。

 

ちなみに4,8小節目は半拍早く(=食って)演奏されて…と思ったら12、16小節目も同様ですね。

4小節目はA7のコードトーンが全て用いられているのでこれで確定と見ていいでしょう。

8小節目も2拍目でクロマティックアプローチでもないのにEbが使われていますのでFm7かF7であると推測することが可能です。

前後の文脈から推測する

さて、テーマのベースラインを書き出すことによってコードのルートだけはなんとなく推測できました。

前回記事では「テーマで用いられている音を参考にする」と書きましたが、今回は曲を伏せているので後回しにしましょう。

というわけでルートだけしか分からない状態ではありますが、ある程度文脈を読んでみようと思います。

ただしこれにはコツがあります。それは後ろから見ていくということです。

テーマの13~16小節目

 

後半の2小節は典型的なターンバックであるように見えます。

この部分は32小節あるテーマの丁度折り返し地点ですから、ターンバックとしてIIIm7-VI7-IIm7-V7(-IM7)があっても全くおかしくありません。

またターンバックの解決先(=トニック)がF、すなわちこの曲のキーが(途中で転調していなければ)Fであることもこれから分かります。全体のハーモニーは明るい感じがするのでFメジャーでしょう。

その前の2小節に渡ってEが続く部分。ルートしか弾いていないのでこれだけで断定はできませんが、これもターンバックに繋がるのでもしかするとE7かもしれません。

テーマの9~12小節目

 

後半2小節はこの曲のトニックであるFM7と見ていいでしょう。

そうするとBbはIVM7となるのでBbM7、そしてそこから繋がる2小節目のEbはありがちなモーダルインターチェンジであるEb7でしょう。

テーマの5~8小節目

この部分の最後の小節はFm7かF7だと書きましたが、その後がBbM7へ解決することを考えるとF7だとするとつじつまが合います。

当然その前のCもCm7だとすると綺麗にCm7-F7-BbM7というIIm7-V7-IM7になります。

その前のDはこれだけでは判断できません。後に回しましょう。

テーマの1~4小節目

 

初めの2小節はこの曲のトニックであるFM7で決まりでしょう。
※もしこの部分を聴いて暗いハーモニーだと感じたらFm7です。しかし今回は明るいハーモニーでした。

先に書いた通り4小節目はA7で確定ですし、そうするとそれに繋がる3小節目はそのサブドミナントであるEm7もしくはEm7b5の可能性が高いと思われます。

というわけでここまでの検証結果をふまえるとこんな感じになりました。

 

テーマのベースラインのトランスクリプションからここまでは分かりました。

まあこの曲の場合は比較的シンプルな曲だから分かりやすいというのもありますが、それでもまだ分からない部分があります。

アドリブソロのベースラインでより正確に

ここでやっとアドリブソロの1コーラス目のベースラインが役に立ってきます。

 

これを見ると3小節目の2拍目にフラット5thが用いられており、ここはEm7ではなくEm7b5だということがわかります。

同じく5,6小節目ではマイナー3rdが用いられているため、Dm7と見ていいでしょう。

13,14小節目はちょっと分かりづらいのですが、少なくともEm7b5やEm7ということはなく、EM7かE7であるだろうということが分かります。

その次の小節がAm7から始まるターンバックであることから、E7であると考えるのが自然だということになります。

というわけで最終的にはこんな感じになりました。

 

既にお気づきの方も多いかと思いますが、今回取り上げた曲はI’ll Close My Eyesです。

この曲は、比較的シンプルな構成のため、ここまでの過程だけでコードチェンジをほぼ確定させることができました。
※今回題材とした曲の音源はこちら

何度も転調しているなど、複雑な曲や、テーマとアドリブソロのコードチェンジが異なる曲の場合はもう少し苦労するかと思います。

しかしそういった場合も今回ご紹介したやり方で大体はコードチェンジを割り出すことが可能になりますし、それでも分からないという場合はアドリブソロそのものをトランスクライブしたり、テーマと1コーラス目だけ

でなく、より多くのベースラインをトランスクライブすることによってさらに精度を上げることが可能になります。

いずれにしろコードチェンジのトランスクリプションはちょっと骨の折れる作業ですが、楽譜の無かった曲を演奏することができるだけでなく、アドリブソロを行ううえで必須となる耳のトレーニングや作曲の勉強にもなります。

耳コピに少し自信のある方は積極的に取り組んでみると良いと思います。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。