我が家には小さな庭がある。
本当に狭くて小さな場所だが、ときどきバーベキューをしたり、七輪で魚を焼いたりする。
そこで、今夜は肉でも焼こうと、ホームセンターに炭を買いに行ったところ、スモークチップ(燻製のための煙をだす木片)の販売をみかけた。
「燻製でビールなんていいなー。そういえば、段ボールで燻製が作れたはず」そんなあいまいな記憶でスモークチップを購入。
なにぶん急な思いつきなので、帰宅して物置を探ったところ段ボールはなかった。
もしやと思いゴミ置き場に行ったら、前に購入したペットボトルの段ボールを見つけた。
こいつはいい! 使おう。
と思ったが、なにぶんどのように段ボールを加工すればいいか分からない。
禁断のアイテム“スマホ”に手を伸ばそうか迷っていると、偶然にもミニ四駆の制作記事なんかでもお世話になっているMr.Iが通りかかった。
彼はモジカルの工作担当。これは幸運と引き込むことにした。大体の主旨を説明すると、特に理由も聞かずテキパキ工作しだすMr.I。世界がゾンビであふれたら、彼と行動を共にしようと決める。
段ボールの真ん中くらいに、横に広い穴を空ける。
貫通するように反対側にも。
このとき、穴の切り抜いた部分を切り離さずにぷらぷらさせておくのが重要らしい。この意味は、後で分かる。
ちなみにMr.Iから「いい段ボールあったね」と、言われた。
まさかこれから食品を燻すものを、ゴミ置き場にあったとは言いづらい。「う、うん。ちょうどア●ゾンで頼んだから」なんてごまかす。
上から見るとこんな感じ。ちょっと! 上部が蓋になっているから食材も置きやすい!
これ本当に今考えたの!? さすが我らが工作担当Mr.I。
1分で作ったとは思えない発想力。いける!
燻製するには、火をおこしてスモークチップを投入し、食品を煙にさらさなければいけない。
かといって、地面でそのまま火を起こせば地表が焦げてしまう。
あと、地中の生物環境を変えてしまうからよくない、というようなことを聞いたことがある。
そこで鉄製のイスの上で燻すことにした。こちらも物置から引っ張りだした。
炭に火を移すのは大変なので、コンロで焼く。
これで簡単に火が入るので、おすすめ。キャンプ場にカセットコンロを持っていっても使える。
まあ、薪で火をおこすというのは、かっこいい場面のベスト3に入る。
こっそり前日入りして、森の奥深くにでもカセットコンロを隠しておくといい。
炭に火が移ったので食材を用意。と、ここで気づいた!
そういえば、燻製用の食材買っていない! これが思いつきの悪いところだ。とりあえず冷蔵庫を探る。
あった! チーズとちくわ! 気温も高い、テンションもおかしい上に汗だくだ。
いわゆる脱水による譫妄状態だ。
ここでスモークチップ登場。さくらのチップらしい。なにぶん前知識なしでやっている。
さくらのチップがスタンダードなのかはいまいち分かっていない。
でも、このパッケージで妙に目立つさくらのピクトグラム。なんだか誇らしげな勲章のように見えて、頼もしい。
イスに直接火をつけると、新進気鋭の作家による現代アートのようになってしまう。
そのため、アルミでできたお菓子の缶の中に炭を置く。さてこの缶、平素はお盆に送り火を燃やすのに使っている。
寺の坊さんに聞いた訳ではないが、恐らく罰当たりだろう。燻製を行う際は、熱に強い別の容器の使用をオススメする。
チップをかける。分量をいまいち分かっていない。適当。
チップの量が多すぎたのか、炭の燃えが悪くなり一向に煙が発生しない。火力の強い炭を燃やす。
ようやく炭がチップを燃やして煙が出てきたので、段ボールの蓋をする。
ソーセージもあったので入れた。なんか思っていた匂いと違う。
端的に言えば、おいしそうではない。勘で作っているだけに、不安が走る。
ちなみに、冒頭で記載した切り抜き部分。このように、中の様子を見る小窓として使用できる。
煙は比重が軽いので、上へ上へと移動する。そのため、上部の蓋を開けると煙が一気に外にでてしまう。
そこで、段ボールの真ん中くらいにある、この切り抜き部分からのぞけば、段ボール内を確認しても少し漏れる程度で済むという寸法だ。
使用後は切り抜いた部分を戻せば蓋となる。これにより一層燻製機内の密閉率を高める。
うーん、Mr.I、その発想力たるやすばらしい! まさかゴミ捨て場の段ボールがこんなに素晴らしいものになるとは。
なんとなくチップの状態を見たくて段ボールを外す。このとき大量の煙が天空へと昇っていった。
せっかく素晴らしい機構を備えてくれたのに、悪い。チップはところどころ焦げていた。ただそれだけ。
勘でやっているので、どのくらいの時間燻せばいいのか分からない。とりあえず、1時間ほど放置することにした。
夜もとっぷりと暮れてきた。バーベキューの準備を進める。
燻製機は場所をとる。我が家の狭苦しい庭では、正直邪魔だ。
1時間経ったので中をのぞく。お! チーズは表面の色が変わっている!
と、喜んでいるとMr.Iが一度自宅に戻り持ってきた“たまたまもらった市販の燻製チーズ”をとりだす。
見た目があまりにも違う。ぬか喜びにがっくりと肩を落とす。
こちらが僕の燻製チーズ。うっすら色はついているけど、海外土産のぱさぱさビスケットのような様相だ。
が、食べてみるとあら不思議。ちゃんと燻されている! うまい!
ちくわも切る。チーズのおかげで期待大だ。包丁を持つ手も心なし早い。
そして、このちくわが一番おいしかった。噛めば噛むほど燻製のいい香りと旨味が口中に広がる。
ビール合う!
なんかソーセージはいまいち。燻しが足りないのかもしれない。
第一陣で自信を得たので、後続は多めにいく。今度は、ロードローラーだ! いや、燻製時間2倍だ!
チップも多めだ!
さきほどよりも燻製機から漏れ出す煙が多いのだ!
〜2時間経過〜
2時間ほど経ったので開けてみる。もう、全然色味が違う。さきほどの第一陣は、夏休みに友達とプールに行ってきた女の子くらいの茶色っぽさだった。
今回は、大学生の彼氏と3泊4日の東南アジア旅行から帰ってきた女子校生並みに茶色くなっている。
この辺でとりだしてもよかったが、実は同時並行で進んでいたバーベキューがなかなかにおいしく(ラム主体)、ちょっとお腹がいっぱいだった。
燻製はとりだしたらあたたかい内に食べたい。
もう少し燻そう。そう、彼氏に振られて一人でバハマの海岸に行き、現地で知り合った現地人男性と1週間ほど過ごしたOL並みに茶色く色づくまで放置してみることにした。
バーベキューで余ったカボチャも入れてみた。飲み過ぎて酔った。
ちくわから試食。これは、もう…たまらん。今後ちくわは燻製したものしか食べない。おいしい。
魚肉の食感はそのままに、外側のちくわの皮とも呼べるヒラヒラとした部分に燻製の香りがあふれ、鼻に抜ける練り物独特の香りと燻製フレーバーが実にまろやかだ。
とげとげしていない味わいで実においしい。
そしてやはりソーセージはいまいち。なぜだろうか。どうも豚肉とは合わないのかもしれない。
そういえば、豚の燻製というのは、あまり…、いや、聞きますね。とにかく、おすすめはしない。焼いて食べたら、普通のソーセージだった。
一応感想を書いておくと、カボチャに至っては生のまんまだった。焦げ臭いカボチャだ。味は推して計るべし。
一番のハイライトであるチーズだが…、なんと燻製しすぎて溶けて固まってしまった。網からなかなか剥がれず、ぽろぽろと崩して食べるようなことに。
味はやはりおいしい。燻製としては2時間はベストだ。後は網につかない方法さえ思いつけばいい。Mr.Iがね。
勘でやっても意外といける燻製、是非オススメだ。ホームセンターなんかで全てのセットが揃う。あとは、帰りがけにゴミ捨て場で段ボールを探すのを忘れずに。