A Tribute To Miles | レジェンド達のお喋りをよく聴いてみよう

A tribute to miles

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以前ウォレス・ルーニーを紹介する記事でも少し取り上げたのですが『A Tribute To Miles』という作品をご存じでしょうか?

Herbie Hancock Quintet『A Tribute To Mlies』(1994)

パーソネル

ハービー・ハンコック(p)
ロン・カーター(b)
トニー・ウィリアムス(ds)
ウェイン・ショーター(ts)
ウォレス・ルーニー(tp)

収録曲

  1. So What (Live)
  2. RJ
  3. Little One
  4. Pinocchio
  5. Elegy
  6. Eighty One
  7. All Blues (Live)

1991年に亡くなったマイルス・デイヴィスを追悼するために行われた、1992年のライブと1994年のレコーディング音源を合わせたものから構成されており、メンバーもマイルスの黄金クインテットを支えた豪華メンバーにウォレス・ルーニー(tp)を加えたクインテットによる演奏です。

本来、同じクインテットの演奏であればマイルス自身の『Live at Plugged Nickel』を強烈にプッシュしたいところではありますが、あえて本作品を挙げたのには一応理由があります。

So WhatとAll Bluesを聴け

この作品は、アドリブの演奏はある程度できるようにはなってきたけど、インタープレイって何ぞや? という方にこそ聴いていただきたい作品です。

中でも特に、ライブレコーディングされたSo WhatとAll Bluesこそ聴くべきでしょう。

インタープレイの中でも比較的分かりやすい、ソリストとドラマーの掛け合いだけではなく、ソリストの後ろでベースやピアノがどんなことを演奏しているかということに注目して聴いてみてください。

インタープレイに関してもやもやしているあなたの悩みをさらに深めて……もとい、一筋の光明をもたらしてくれるかもしれません。

もちろん彼らが行っていることはかなりデフォルメされたもので、耳コピして練習し、今すぐジャムセッションで試せばうまくいくという性質のものではありません。

めちゃくちゃ露骨にやっている

それでは何故この2曲を聴けというのか。

その理由はものすごく露骨にやっているため、インタープレイって何だろうという方にも聴き取りやすいからです。

と同時によーく聴いてみると、一聴して気付かなかったところでも演奏者同士のコミュニケーションが繰り広げられており、何度聴いても発見のある音源でもあります。

1曲目のSo Whatのトランペットソロの出だしを聴いてみてください。

トランペットソロの初めの1フレーズ目(上の音源で42秒前後)、そのフレーズの直後少しできたスペースをすぐにピアノがトランペットが用いたモチーフを使ってフォローします(同45秒)。

その後のトランペットの2フレーズ目(同46秒)も同じくピアノがぴたりとすぐ後ろをついてきています(同49秒)。

9~15小節目はトランペットの音数が増え、同時に少し高めの音域で息の長いフレーズを演奏しますが、その間ベースも16小節目付近に向かって息の長いフレージングを用います。

一方ピアノはトランぺットが多くの音を吹いている間はスペース多めの非常にコンパクトなコンピングを行っています。

長めのフレーズが着地する16小節目でできたスペースではドラムよりもピアノが主体となってバンドをBセクションへ誘導します(同58秒)。

Bセクション冒頭ではトランペットが高い音を用いて演奏の緊張感を高めますが、同時にベースは高めの音で、ピアノは上行する長めの音を用いて緊張感をサポート(同59秒)。

Bセクションの最終小節(24小節目)ではドラムが少し前から着地のサポートをして1コーラス目ラストのAセクションへ切り替わります(同1分05秒)が、すぐにベースが高い音を多めに用いて次のコーラス頭へ向けて緊張感を高め、コーラスの終わりまで維持していきます。

同時にトランペットはその緊張感をはらみつつ1コーラス目の終わりに区切りをつけるかのように主に8分音符を用いて歌い終えます。ピアノも下行していくブロックコードで一応の区切りを表現します。

これは一見するとベースに対してトランペット、ピアノで逆のことをしているように見えますが、全体の緊張感そのものは高まったまま……そう、これは2コーラス目冒頭へ向けた焦らしプレイです。

その証拠にトランペットが歌い終わった直後、31,32小節目にぽっかりと設けられたスペースにドラムがそれまで高まった緊張感を思いっきり放出するかのようにフィルイン(同1分12秒)し、全員で2コーラス目の冒頭へ向かって飛び出していくというような、1コーラス目だけピックアップしてもこんな感じの非常にエキサイティングな展開が繰り広げられているのです。

この作品をきっかけとして「プレイヤー同士の会話」を聴きとる練習を

とはいえ先にも書いた通り、こんなインタープレイをそのままジャムセッションでやろうと思ったってなかなかうまくはいかないと思います。

しかしこの作品を通じて一流プレイヤーの間ではこんなやり取りが行われているんだ、ということに気づくすることができれば、他の演奏を聴いた時に今までより細かなインタープレイを聴きとることが可能になってくるはずです。

英会話を学ぶときにネイティブスピーカーの会話を聞くのと同じように、あなたがさまざまなジャズの演奏で行われているプレイヤー同士の会話を聴きとることができれば、演奏するときにどうやってコミュニケーションしていけば良いのかだんだんと身についてくるはずです(もちろんすぐにというわけにはいきませんが)。

 

というわけで今回はちょっとマニアックな話になりましたが、あなたがジャズの演奏で一皮剝けるためにはこんな聴き方も役に立ちます。

ちょっと難しそうな印象を受けるかもしれませんが、今まで音楽をざっくりとしか聴く習慣のなかった方にも一度試していただきたい聴き方です。

ざっくりとした聴き方で得られる「雰囲気」を感じ取ることは本来ものすごく大事なことですが、このように細かい点に注目してみるのも、ジャズの本当の奥深さの一端に触れるためにも役立ちますので、ぜひ落ち着いた環境でよく聴いてみてください。



ABOUTこの記事をかいた人

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1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。