これまでは初心者やジャズ未経験の方向けの記事を中心に書いてきましたが、今回は少しハードルを上げて脱初心者を目指す方、もしくはジャズ中級者向けの記事をということなので書いてみたいと思います。
今回は、特に初心者がジャムセッションでよくやるようなシンプルな曲にはそろそろ飽きたという方や、少し難しめの曲に挑戦してはいるけれど、どこかでつまずいて一向に進歩がないという方にとって役立つものであればいいなと思います。
なるべく分かりやすく書いたつもりですが、ちょっとややこしいことも書いてあります。お時間のあるときに読んでみてください。きっと、お役に立つと思いますよ。
ブルース
えっ、ブルース? と思われるかもしれませんが、やはりジャズをやるのならばブルースをどこまでも追求していく必要があると僕は思います。
もちろん1つのキーをじっくりと練習してもいいのですが、ここでは全てのキー、すなわち12個のキーで練習しようという話です。
僕のレッスンでも簡単なキーから難しいものまで、時間をかけて必ず12個のキーに取り組むようにしていますが、これは全てのキーでスラスラとではないにしろ、それなりにアドリブをできるようにしておくことを目的として行っています。
全てのキーでアドリブ演奏をできるようにすることは、複雑な曲に取り組む上で非常に大きなアドバンテージになるのは当然のことですが、たとえ簡単な曲であってもより自由な演奏をするのに大きく役立ちます。
用いるブルースはいわゆるジャズブルースと呼ばれるもので、キーがCなら以下のようなチェンジになります。
|C7 |F7 |C7 |Gm7 C7|
|F7 |F#dim7|C7 |Em7b5 A7|
|Dm7 |G7 |C7 A7|Dm7 G7|
1つのキーに慣れてきたら別のキーの練習に移るのですが、サークルオブフィフスに沿ってでもいいですし、好きなキーからランダムにでも、最終的に全てのキーを制覇できればどんな順番で練習していっても構いません。
ちなみに全てのキーを一気に練習したい場合は、コードチェンジを以下の赤字のように変えれば1コーラスごとに4度ずつキーが上がるので12コーラスで全キー制覇ということになります。
|C7 |F7 |C7 |Gm7 C7|
|F7 |F#dim7|C7 |Em7b5 A7|
|Dm7 |G7 |C7 A7|C7 |
ブルースと書きましたが、代わりにリズムチェンジ(=循環)で同じように12キーの練習をしても結構です。
BやF#など、ちょっと敬遠しがちなキーにも挑戦し、そこそこアドリブできることと、頭の中でそれらのコードに慣れておくことは脱初心者を目指す上でとても大事なことであると思います。
そして当然、少し難しめの曲に挑戦するうえでは、特にこれから書くことを理解し演奏に生かすためには苦手なキーをなるべく少なくしておくということは非常に大事なことです。
曲をきっちりアナライズしよう
ツーファイブワンはなんとなく演奏できるし、簡単な曲ならまあどうにかなるけどちょっと難しい曲だと困っちゃうという方。
演奏したい曲をきっちりアナライズできていますか?
ぱっと見た感じ難しいなーと思ってしまうような曲であっても、正確にアナライズすることで頭の中でそのコードチェンジに対しての解釈がはっきりし、演奏しやすくなるものです。
もし仮にそのアナライズが多少自己流の解釈であったとしても、ある程度は役に立ちます。
次からは具体例を挙げてみます。
The Girl From Ipanema
ここで取り上げるのは有名な「イパネマの娘」です。
ジャムセッションでもよくやるし、初心者の方が挑戦されていることもありますが、この曲のBセクションはかなりの曲者です。
※一応この記事は脱初心者を目指す方や中級者向けとして書いていますから、Aセクションの説明は省きます。
Bセクションのコードチェンジは以下の通り。
|F#M7 |F#M7 |B7 |B7 |
|F#m7 |F#m7 |D7 |D7 |
|Gm7 |Gm7 |Eb7 |Eb7 |
|Am7 |D7 |Gm7 |C7 |
このBセクションは3つのキーに転調しているのですが、こんな風にしてみたら理解しやすいでしょう。
|F#M7 |F#M7 |B7 |B7 | → Dbメジャー
|F#m7 |F#m7 |D7 |D7 | → Eメジャー
|Gm7 |Gm7 |Eb7 |Eb7 | → Fメジャー
|Am7 |D7 |Gm7 |C7 | → Fメジャー
このような感じです。
※4段目はよくあるIIIm7|VI7|IIm7|V7なので説明は省きます。
一見すると何だこれはという感じのコードチェンジですが、実はThere Will Never Be Another YouやI’ll Close My Eyesなどのようなスタンダード曲のそれぞれ9、10小節目と25、26小節目でもこれと同じようなことが行われています。
例えばI’ll Close My Eyesの9,10小節目は|BbM7|Eb7|(もしくは|BbM7|Bbm7Eb7|)となっており、この曲のキーであるFメジャーで考えると|IVM7|bVII7(フラットセブンセブンス)|(もしくは|IVM7|IVm7bVII7|)ということになります。
このコードチェンジ、モーダルインターチェンジといってスタンダード曲ではよく見られるコードチェンジなのですが、The Girl From Ipanemaではこのコードチェンジを引き伸ばした上に少しひねって用いています。
※モーダルインターチェンジとは
多くの曲は基本的に転調していない限りは、そのキーのダイアトニックコードとそれぞれのダイアトニックコードへ向かうドミナントとサブドミナントに該当するコードを用います。
しかしモーダルインターチェンジをする場合、ダイアトニックコードを構成するのに用いる音階を少し変えてしまうのです。
Key=Fメジャーの場合、通常のダイアトニックコードは以下の通りになります。ようはそれぞれのコードのルートがFのメジャースケールに沿っています。
FM7 Gm7 Am7 BbM7 C7 Dm7 Em7b5
(IM7 IIm7 IIIm7 IVM7 V7 VIm6 VIIm7b5)
そこへFメジャーではなくFナチュラルマイナーを使ってダイアトニックコードを作ってみます。
Fm7 Gm7b5 AbM7 Bbm7 Cm7 DbM7 Eb7
(Im7 IIm7b5 bIIIM7 IVm7 Vm7 bVIM7 bVII7)
※マイナーのダイアトニックなんて覚えられない!! と思った方はAbの普通のダイアトニックコードをFから始めただけと考えてみましょう。
モーダルインターチェンジとは、その曲(もしくは一部分)のキーのダイアトニックコードに用いるスケールを変えた別のダイアトニックコードから部分的にコードを借りてくることです。
ダイアトニックコードに用いるスケールを変えると言っても、ほとんどの場合は上で説明したようにナチュラルマイナーを用います。
その中でも特に用いられるのはbVII7とそのサブドミナントとなるIVm7であることがほとんどです。
※The Girl From Ipanemaの楽譜上ではIVm7は用いられませんが後で出てくるので覚えておいてください。
さて、ややこしいモーダルインターチェンジの説明はこんなものにして話をThe Girl From IpanemaのBセクションに戻します。
4小節で一段として、それぞれ分けて考えてみましょう。
1段目:Key=Dbメジャー
|F#M7 |F#M7 |B7 |B7 |
Dbメジャーで考えると
|IVM7 |IVM7 |bVII7 |bVII7 |
ようはI’ll Close My Eyesなどと全く同じ、よくあるIVM7→bVII7のモーダルインターチェンジ。
2段目:Key=Eメジャー
|F#m7 |F#m7 |D7 |D7 |
同様にEメジャーで考えると
|IIm7 |IIm7 |bVII7 |bVII7 |
さっきとは少し違うパターンで、IVM7ではなくIIm7からモーダルインターチェンジへ行くというのは決してよくある形ではありませんが、モーダルインターチェンジであることには間違いありません。
3段目:Key=Fメジャー
|Gm7 |Gm7 |Eb7 |Eb7 |
こちらはFメジャーで考えると
|IIm7 |IIm7 |bVII7 |bVII7 |
キーが異なるだけで2段目と全く同じです。
というわけでBセクションはこの3つのキーとそのモーダルインターチェンジがキモとなります。
で、アナライズしたから何?
何もアナライズせずに単に楽譜通り、例えばF#M7をF#M7として、B7はB7と思って演奏したってもちろん間違いではありません。
しかし上のようにアナライズをするとDbメジャーのIVM7はF#リディアンであるということがわかるだけでなく、頭の中で以下のような発想をしやすくなります。
前提:Bセクションは3つのキーを用いて行われるモーダルインターチェンジであり、その場合bVII7の前にそのサブドミナントであるIVm7も用いることができる。
1.F#M7はDbメジャー(Dbイオニアン)、B7はDbマイナー(Dbエオリアン)を使うことができる。→2小節ずつそれぞれDbメジャーとDbマイナーのモチーフを使うことができる。
※Dbエオリアンのm3rdはB7の4thでありアボイドノートだが、その部分だけB7のサブドミナントであるF#m7(IVm7)だと考えればほぼ回避できる……というのは現実的にはちょっと疑問符が付きますが、あくまで頭の体操として挙げてみました。
2.F#M7はそのままF#M7として、B7はそのサブドミナントであるF#m7と考える。→2小節ずつのF#メジャーとF#マイナーのモチーフを使うことができる。
こんな風に考えると同じコードチェンジでも複数のアプローチが存在することが分かりますが、これはコードチェンジをきっちりアナライズしなければ見えてこないアプローチです。
というわけで、今回はモーダルインターチェンジに多くのスペースを使ったように見えますが、そもそもこういった考え方は12個のキーを頭の中である程度自在に扱うことができなければ全く役に立ちません。
そのためにも冒頭で紹介したように全てのキーでブルースやリズムチェンジを練習することは必要不可欠です。
脱初心者を目指す方や、何か難しい曲でつまずいてしまっている方はぜひ参考にしてみて下さい。