ジャズの曲を演奏するうえで絶対に避けては通れない分野があります。
それはバラード。
バラードとは主にスローテンポで、多くの場合は恋人への愛を歌ったものなどが多いのですが、やっぱりジャズを演奏するのならバラードも演奏できるようになっておくべきでしょう。
意外と多いバラードナンバー
そもそも日本のジャムセッションで一般の方がミディアムやアップテンポで演奏することの多いジャズスタンダード曲であっても、元をたどってみればバラードで演奏されていた(まれにその逆も)ということが少なくありません。
例えばThere Is No Greater Loveなどはジャムセッションではこんな感じのミディアムで演奏されることが多いでしょう。
しかしそれ以外のシチュエーションではもともとこんな風にバラードとして演奏されることも多い曲です。
もしかすると現在ジャズスタンダードとして扱われている曲の多く、特にボーカルによって歌われることの多い、いわゆる「歌もの」はほとんどがバラードとしてのルーツを持っていると言ってもいいかもしれません。
そのくらいジャズというジャンルの中で重要な地位を占めるバラードという曲調ですが、実際にバラードを演奏するのはちょっと難しいのも事実です。
特に初心者の方にとっては普通のテンポの曲を演奏するので精いっぱいで、ゆっくりとしたテンポで難しいバラードまで手が回らないということが多いでしょう。
バラードを実際に演奏することに関してはかなり前にこんな記事を書いたことがあります。
特に初心者の方は参考にしてみてください。
今回は演奏する方向けというよりはトランペットで有名なバラードナンバーや、個人的に演奏するのが好きな曲をご紹介していきたいと思います。
トランペットで有名なバラードナンバー5選
I Remember Clifford
トランペットのバラードナンバーといえばやはりこれでしょう。
実際に演奏の現場でよくリクエストをいただいたりもします。
この曲は惜しくも25歳で事故死したクリフォード・ブラウンを偲んでベニー・ゴルソンによって書かれたもので、ゴルソンらしく複雑かつ情緒的な曲です。
この動画でトランペットを演奏しているのはリー・モーガン。
この記事を書くにあたって久しぶりに聴きましたが、しっとりとした雰囲気の中にもモーガン節を絶妙なバランスで織り込み、曲本来の美しさだけでなく本当に素晴らしい演奏に仕上がっています。
Stardust
トランペットらしいバラードナンバーといえばこの曲も外せません。
同じく有名なジャズスタンダードである”Skylark”や”Georgia On My Mind”を書いたホーギー・カーマイケルによる曲で、美しいヴァース(本題のメロディに入る前の前振りのような部分)も共に演奏されることの多い曲です。
上の音源ではヴァースを省き、テーマ部分から吹き始めていますが、何の前触れもなく少し硬めの音で切り込んでくるあたり、心をグッと掴まれるような気がしてしまいます。
この曲が収録されている作品、クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングスはジャズのトランペットを少しでも好きな方、いえ少しでも興味のある方は絶対に間違いなく必ず聴いておくべきです!!!
Smoke Gets In Your Eyes
というわけであまりにも好きすぎる同じ作品からもう一曲。
「煙が目に染みる」の邦題でおなじみの”Smoke Gets In Your Eyes”です。
高校生の頃、よく分からないけどカッコいいと思ったこの曲を手探りでコピーした覚えがあります。
この曲、途中で思いっきり面倒なキーへ転調するため実際の演奏はちょいと厄介ですのでご注意を。
My Funny Valentine
ジョージ・ガーシュインによるオペラ、「ポーギーとベス」で用いられた曲で、マイルス・デイビスやチェット・ベイカーの演奏が非常に有名です。
上に二つ挙げたうちチェットの方の動画は晩年の演奏です。
晩年のチェットは薬物などの影響でよれよれになっているのが良いなんて言う人もいますが、アドリブのフレージングをよく聴いてみると、よれよれどころか無駄がなく非常にクレバーに聴こえます。
特にこの演奏なんかはそのまま楽譜に書き起こすだけで良い教材になりそうですしね。
もちろん演奏技術という面で彼自身の全盛期と比べると少し劣るのは事実ですが、トランペットの鳴り方も非常に力強いですよね(そういえば「鳴り」を音がデカいとか乱暴に吹くのと勘違いしてる人、最近よく見かけるんですが)。
曲の紹介をするはずだったのが、なんだかチェット・ベイカーの話になってしまいました……
Round Midnight
セロニアス・モンクによるバラードナンバーで、トランぺッターではここで説明するまでもなくマイルス・デイビスの演奏が最も有名です。
モンクの曲、特にバラードは非常に美しいながらも難解なものが多く、それだけになかなか実際に演奏する機会は少ないのですが、とても勉強になるのでぜひ挑戦しておくべきだと思います。
ちなみにマイルスによるこの曲の演奏で最も有名なものは上に挙げた音源かと思いますが、マイルスバンドの他のメンバー編成による演奏も数多く存在しますのでいろいろ聴き比べてみると良いかと思います。
そういえば初めの方に個人的に演奏するのが好きな曲も挙げるとか書きましたが、どうやらスペースが足りなさそうです。
というわけで後編へつづく。